研究実績の概要 |
本研究の目的は,社会的ネットワーク及び交通ネットワークを通じた社会的相互作用の空間波及メカニズムを解明し,都市・地域システムとの関係について理論的に明らかにすることである.H27年度は,これまでに構築した理論的枠組みを基礎として,(A)コミュニケーション外部性と混雑外部性を同時に考慮した次善の交通政策分析,(B)企業間取引ネットワークが企業集積に及ぼす影響に関する実証分析を実施した. (A)では,まず,2 地域からなる都市空間上で,社会ネットワーク上でつながりを持つ主体同士が都心のミーティング施設を訪問することによってコミュニケーションを行う状況を想定し,システム全体としての均衡における主体間のコミュニケーション水準を解析的に導出した.その際に交通混雑を考慮し,最善政策および政策代替案について検討した.最善政策の実施に必要な社会的ネットワークに関する私的情報が政府にとって入手困難であることを指摘した上で,社会ネットワーク情報を用いない逐次的な次善政策によって,長期的に社会的最適状態を達成し得ることを示した. (B)では,理論研究で明らかとなった主体間の地理的距離と社会的距離の関係について,企業間取引ネットワークを対象に実証した.具体的には,某K市に立地する約1000企業を対象とする分析の結果, 取引ネットワークにおいて中心的な企業ほど,地理的に中心的な場所に立地すること,また,ある企業の社会的距離指標が1標準偏差だけ変化したとき,当該企業と他企業との平均地理的距離が 0.24(739m)減少する(より集積地に立地する)ことが明らかとなった. 上記の成果については,国内学会で発表を行った.また,(A)の成果については,査読付き学術論文集に投稿済みである.
|