研究課題/領域番号 |
25420551
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
倉内 慎也 愛媛大学, 理工学研究科, 准教授 (90314038)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 交通行動分析 / 交通料金政策 / 交通税制 / 公共受容 / ロードプライシング / 環境税 / 公共交通 / 交通事故リスク |
研究実績の概要 |
本年度は,まず昨年度分析を行った様々な料金政策に対する移動主体の受容意識構造の分析を行った.その結果,普段あまり自動車を利用しない人ほど,環境税等の課金政策に対する自由侵害感が高く,分配的公正感も低い,自動車利用に対する課金政策を実施する場合には,その代替手段となる公共交通の優遇政策を併せて行うことで自由侵害感が緩和され,それは実際に公共交通を利用するか否かとは無関係である,等の知見を得た. 次に,料金政策を実施した場合の都市圏レベルでの交通需要の変化を把握するために,藤井(1997)によって開発された生活行動シミュレータPCATS(Prism-Constrained Activity Travel Simulator)に改良を加えた.具体的には,ロードプライシング等の課金エリアの検討が行えるよう,ゾーニングを細かくすると共に,自動車利用課金に伴う手段転換を詳細に把握するために,自転車や徒歩等の短距離交通手段の考慮や運転・送迎の区別など,手段分類の細分化を行った.松山都市圏パーソントリップ調査データを用いて同シミュレータを構築し,幾つかの料金政策の実施効果をシミュレートした結果,松山都市圏において各種自動車利用課金を実施しても,トリップ数自体はそれほど変化せず,目的地の変更や自転車への転換が主であること,また,公共交通運賃の割引を併用しても,公共交通への転換はほとんど生じないこと等が明らかとなった. 次に,都市間交通に目を向け,一般道と比較して約10倍程度安全な高速道路の利用促進策に着目して分析を行った.ここで,高速道路料金を設定する際の新たな視点として,交通事故に伴う社会的損失の内生化を念頭に置き,まず,事故リスクについての情報提供が経路選択行動に及ぼす影響を分析した結果,事故リスク情報は高速道路料金と比較して3.8倍もの効果を及ぼす可能性があること等を確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の量的成果については標準的であるものの,研究を通じて得られた知見の新規性および有用性については当初目標を大きく上回るものであると考えている. まず,受容意識構造の分析において得られた,自動車利用課金政策は,その影響度が相対的に小さい人の方が自由侵害感が高い,自動車利用に対して課金政策を実施する際には,実際に公共交通を利用するか否かは別として,その割引を行うなど,転換先となる手段を優遇するような政策を併せて実施するような政策フレームが望ましい,等の知見は,合意形成を行う上で,極めて有意義な知見であると思われる. また,高速道路料金の設定に関する研究については,従来は,道路混雑に応じた料金設定までは検討されていたものの,本研究ではそれに加え,交通事故に伴う社会的損失の内生化を検討している.そのパイロットスタディーから得られた,事故リスク情報の提供が安全な経路の選択に極めて高い効果を及ぼす可能性があるとの知見は,ドライバーの事故防止や事故渋滞の回避という直接的な効果のみならず,高速道路への転換に伴う一般道の混雑緩和や,それに伴う更なる事故削減も期待できるため,社会的インパクトは非常に大きいものと考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
料金政策の実施に伴う都市圏レベルでの交通需要の変化の分析においては,現状では,1日の交通行動を対象とした分析に留まっている.一方,キャップ制や公共交通運賃の上限制など,一定期間を対象とした料金政策では,課金や割引水準が低くてもかなりの行動変容を引き起こす可能性があることがこれまでの分析により明らかとなっているため,今後は,それらの政策の効果も分析できるよう,シミュレータを拡張する必要がある. また,交通事故リスクの分析については,アンケートの自由回答欄において,高速道路のほうが一般道路と比較して事故リスクが高いとの思い込みをしているドライバーが散見された.このような思い込みをしている人にとっては,高速道路は料金がかかる上に危険だと考え一般道路を利用したり,事故リスク情報の信憑性を疑うなどして,結果的に政策を実施しても高速道路の利用促進に繋がらない可能性がある.よって,今後は,どの程度の人がそのような思い込みをしているのか,また,なぜそのような思い込みをするようになったのか等,認知メカニズムを詳細に分析した上で,その解凍策を検討する予定である.
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