本研究では,大規模なインフラ投資を必要としない即効性のある交通施策として,交通系ICを活用した交通料金政策に着目し,公共交通運賃の上限制やCO2排出量のキャップアンドトレード制など,現存しない政策を含む様々な交通税制・料金政策の効果を分析した. まず,様々な交通料金政策に対する利用者反応行動の分析においては,課金や割引水準が同一であっても施策による効果が異なる可能性を考慮し,メンタル・アカウンティング理論等を援用して分析を行った.その結果,課金・割引の効果は大きく逓減するため過剰な水準の課金や割引は望ましくないことや,低水準での課金でも一定期間における課金額の合計値を提示することで大きな行動変容効果が見込まれること等が明らかとなった. 次に,様々な料金政策に対する受容性にも着目して分析した結果,環境税やロードプライシングのように一方的に課金するだけでなく,その代替手段となる公共交通の割引を併せて行ったり,自動車利用を一定量以下に抑えた人には報酬を与えるようなフレームを有する施策の方が,受容性と行動変容の双方の観点から望ましいこと等が判明した. また,料金政策を実施した場合の都市圏レベルでの交通需要の変化を把握するために,藤井(1997)によって開発された生活行動シミュレータPCATSに改良を加えた上で分析を行った結果,松山都市圏において各種自動車利用課金を実施しても,トリップ数自体はそれほど変化せず,また,公共交通運賃の割引を併用しても,公共交通への転換はほとんど生じないなど,限界があること等が明らかとなった. そこで,利用料金以外の側面からのアプローチとして,交通事故に伴う社会的損失の内生化を念頭に置き,事故リスクについての情報提供が交通行動に及ぼす影響を分析した結果,事故リスク情報は高速道路料金と比較して3.8倍もの効果を及ぼす可能性があること等を確認した.
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