研究課題/領域番号 |
25420563
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 八戸工業高等専門学校 |
研究代表者 |
菊地 康昭 八戸工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (40204838)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | カビ臭物質 / 水道水質基準 / 多孔質高分子膜 / 分子認識 / ホスト-ゲスト相互作用 |
研究概要 |
カビ臭物質であるメチルイソボルネオール(2-MIB)は水質の富栄養化により発生する藍藻類などの植物性プランクトンが生成する化学物質であるが、近年、河川や貯水池などの悪臭物質として問題となってきている。このため、平成16年の水道法改正の際、新たに水道水質基準に設定された物質であり、これらの効率的な除去が急務となっている。これには、特定の分子を認識する機能を利用して選択的にカビ臭物質を除去することが有効となると考えられる。 そこで本研究では、多孔質高分子膜を容易に形成する膜剤にゲスト分子であるカビ臭物質に対して分子認識能を有するレゾルシン環状四量体とその誘導体をホスト分子として含有させた高分子膜を調製し、カビ臭物質除去高分子膜の開発を目的として研究を行った。分子認識能を有するレゾルシン環状四量体誘導体合成は、レゾルシン環状四量体を基にして、これに種々の官能基をマニッヒ反応により結合させることにより合成することが出来た。次に、ホスト分子を含有した高分子膜を調製して、2-MIBとほぼ同じ構造だが安価なイソボルネオール(IB)を用いて、高分子膜に対する吸着実験を行った。なお、膜剤としてはポリスルホン(PSf)とポリエーテルスルホン(PES)を用いた。調製された膜は、電子顕微鏡による観察によって、多孔質構造を維持していることは確認できた。 その結果、ホスト分子の側鎖に水酸基を有するa-Hostとb-Hostの吸着量が高く、特にa-Hostにおいて顕著であることが示された。なお、膜剤はPSfでもPESでもどちらでも同様な結果となった。一方、吸着の際の溶媒の極性について影響を検討したところ、極性が低いほど吸着量が増加することが明らかとなった。これらより、IBは、ホスト分子の環状部で疎水性相互作用によって主導的に、側鎖水酸基とIBの水酸基が水素結合によって補助的に捕捉されることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カビ臭物質除去高分子膜の開発には、まずカビ臭物質との相互作用力が強いホスト分子を見出す必要がある。この際、カビ臭物質が有する疎水基が構造的に大きいことから、ホスト分子にも大きい疎水場を持たせる必要がある。このためレゾルシン環状四量体をベースにして、これに種々の官能基をマニッヒ反応により結合させた各種誘導体を合成する必要があり、エタノールアミノ基を有するa-Host、ジエタノールアミノ基を有するb-Host、ジエチルアミノ基を有するc-Hostを合成することが出来た。 次に、高分子膜の膜剤として、ポリスルホン(PSf)とポリエーテルスルホン(PES)の2種類を用いた。これら単独で高分子膜を調製し、イソボルネオール(IB)に対する吸着能を検討したところ、これらの持つ疎水性によって、どちらも吸着が可能であることが分かったが、PESの吸着量がPSfよりも多いことが分かった。 これら膜剤に、ホスト分子を含有した高分子膜を調製し、IBに対する吸着実験を行った。ホスト分子の含有率は、10, 15, 20wt%となるように調製した。これらの膜も電子顕微鏡により多孔質構造となっていることを確認できた。吸着実験の結果、ホスト分子の側鎖に水酸基を有するa-Hostとb-Hostの吸着量が高く、特にa-Hostにおいて顕著であることが示された。また、溶媒の極性が低いほど吸着量が増加することが明らかとなった。 一方、ナノ形状記憶インプリント高分子膜の調製は、IBとホスト分子を混合した状態から膜形成させるが、これからIBだけ除去するための良好な溶媒条件は検討中である。ただし、形成された膜はこれまでと同様、電子顕微鏡により多孔質構造となっていることは確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
現段階で、ホスト分子を含有した高分子膜において、IBに対して高い吸着能力が発現することを見出したが、この能力をさらに向上させるために、ナノ形状記憶インプリント高分子膜の良好な調製必要となる。この高分子膜は、高分子膜材とホスト分子およびカビ臭物質を溶媒に溶解させ、ホスト-ゲスト錯体を形成させた状態で、蒸留水中で相転換することによってホスト-ゲスト錯体を含む高分子膜を形成させ、その後、ゲスト分子のみを溶解させて除去すれば、調製可能であると考えられるが、ゲスト分子のみを効果的に除去する条件が重要となり、今後、使用する混合溶媒の比率、温度、除去時間等の検討を推進する。 このようにして調製されたインプリント高分子膜およびホスト含有高分子膜によるIBの吸着性能について実験を行う。特にインプリント高分子膜とホスト含有高分子膜を比較することでインプリント効果がどのように現れるのかが重要となる。一方、カビ臭物質であるメチルイソボルネオールとジェオスミンの混合物に対する選択性も検討する。2種類のカビ臭物質に対する選択性が、インプリントされる物質によってどのようになるのか、つまり目的とする物質に対する選択性がどのようになるのかを明らかにする。なお、実用面を考えると、カビ臭物質と同程度の構造と疎水性を有する化合物は、カビ臭物質の吸着を阻害する可能性があり、性能を低下させる可能性がある。このため、他の基準物質であるフェノール類や非イオン界面活性剤を混在させた場合にも性能が発揮できるのか検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
日本化学会春季年会が3月27日(木)~3月30日(日)に行われ、この旅費の支払いが平成26年度となったため、旅費分が次年度使用額に計上された。 次年度使用額に計上された旅費は、平成26年4月に支払いされ、すでに使用完了している。
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