現行のRC建物の設計においてせん断破壊型柱は,地震時に軸力保持能力を喪失して崩壊する恐れがあることから使用が避けられている。しかし,せん断破壊型柱を含む建物ではその高い耐力と剛性が耐震上有利に働く可能性も考えられる。特に,鉄筋量(主筋,せん断補強筋)が多い場合にはせん断破壊型柱であっても大変形領域まで安定して軸力を保持できることが過去の実験により分かっており,靱性型建物の一部にせん断破壊型柱を含めた設計の可能性も考えられる。そこで,現行基準による建物を対象として,曲げ破壊型柱のみからなる建物と,その一部をせん断破壊型柱に置き換えた建物の弾塑性地震応答を比較し,耐震性評価を行った。 柱は曲げ破壊型のF柱を基本とした。F柱は変形が大きくなっても崩壊しないものとした。せん断破壊型のS柱は,過去の鉄筋量が多い試験体の実験結果を基にして最大耐力後の荷重低下を考慮した復元力スケルトンを設定した。S柱の崩壊層間変形は11.4%であり,せん断破壊型柱であっても大変形領域まで軸力を保持できる。 解析モデルは1自由度質点系とした。F柱のみからなるモデルをモデルFとし(固有周期は0.25秒から1秒),ベースシア係数CBを0.3とした。また,F柱とS柱が混在するモデルをモデルF+Sとし,F柱の50%がS柱に置き換わる建物とした。これにより,CBは0.45に上昇する。粘性減衰は初期剛性比例型とし,減衰定数は0.02とした。入力地震動として,過去に観測された4つを用いた。入力レベルはモデルFで塑性率が2,3,4になるように変化させて用いた。 解析の結果,モデルF+Sにおける最大変形比(モデルF+S/モデルF)は0.6から0.9程度であり,モデルF+Sの方がモデルFよりも最大変形が小さく抑えられる,等の知見が得られた。これより,せん断破壊型柱の付加により耐震性能を高められる可能性があると考えられる。
|