研究課題/領域番号 |
25420592
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
小林 正人 明治大学, 理工学部, 准教授 (50373022)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 建築構造・材料 / 構造解析 / 免震 / 津波 / 耐震設計 / 構造設計 |
研究概要 |
本研究では,津波荷重に対する免震建物の構造安全性確保のための構造設計ガイドラインの提案を目的として,1)免震構造の終局挙動を踏まえた安全性確保のための設計条件の提示,2)流体解析による免震建物の動的津波作用時の安全性評価を研究課題としている。平成25年度は,免震構造の終局挙動を踏まえた安全性確保のための設計条件の抽出に関する検討を実施した。 1.簡易建物モデルによる構造安全性評価 免震建物の幅,奥行き,高さ等の建物規模をパラメータとした簡易建物モデルに対して,エネルギーの釣合いに基づく応答予測式を適用し,地震時の免震層せん断力を評価し,これと設計用津波荷重との比較を行うことで,地震荷重が津波荷重を上回る建物規模の条件式を導出した。同様に津波荷重によって生じる積層ゴム支承の軸力変動と長期面圧の関係に着目して,積層ゴム支承の健全性を確保するための建物規模に関する条件式も導出した。 2.試設計建物による設計用津波荷重に対する免震建物の終局挙動の分析 天然ゴム系積層ゴムと鋼材ダンパーを使用した典型的な免震建物を試設計し,設計用津波荷重に対する免震建物の終局挙動,特に免震層の挙動について分析を行った。検討用モデルは,5階建ておよび10階建ての耐震壁付きRCラーメン構造の事務所建物とした。設計用浸水深を7mとしたケースでは,免震層上部構造の耐力は津波荷重を上回ることが確認された。免震層については,津波荷重を受けると過大な変位を生じ,5階建てモデルに用いられる積層ゴム支承は,破断,座屈する可能性が示唆された。10階建てモデルでは,引張面圧や座屈耐力を超える積層ゴム支承は確認されず,面圧は安全限界以内に留まることが確認された。これらの検討を通じて,高層の免震建物ほど,津波荷重に対する性能が高いことが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成25年度の達成目標であった免震構造の終局挙動を踏まえた安全性確保のための設計条件の提示という課題に対して,免震層のせん断力および積層ゴム支承の面圧を健全に確保する建物規模の条件を提示することは達成できている。しかし,免震層上部構造の安全性確保については,明確な条件を提示できていない状況である。平成26年度中には,試設計による検討を拡充し,純ラーメン構造,耐震壁付きラーメン構造等を設定して,上部構造の架構形式と津波荷重に対する耐力余裕度の関係を評価することで,上部構造の安全性確保の条件を提示する。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は,平成25年度に引き続き,免震構造の終局挙動を踏まえた安全性確保のための設計条件の抽出を行う。特に平成26年度は免震デバイスの組み合わせによる耐津波性能について分析する。また,検討が遅れている上部構造の安全性確保のための設計条件についても,試設計を拡充してその条件の抽出を行う。加えて,免震建物と津波浸水予想に関する公表データを利用して,免震建物の津波に対するリスク評価のためのデータベースの構築を行う。 1.免震デバイスの組み合わせによる耐津波性能の分析 免震層に積層ゴム支承を設置すれば,津波荷重作用時に想定される大変形時には,顕著なハードニング特性が得られる。この特性を利用することで免震層の耐力が津波荷重時の層せん断力を上回る設計領域が増え,津波に対する抵抗性を確保しやすくなる。一方,ハードニング特性を示さないデバイスによって免震層が構成される場合には,このような効果は期待できないため,津波に対する抵抗性を確保することは難しくなる。ここでは種々のデバイスをハードニング特性を有するもの(積層ゴム支承,鋼材ダンパーなど)とその特性を有しないもの(すべり支承,流体系ダンパーなど)に分類し,その組み合せ方による地震荷重時の性能(耐震性能)と津波荷重に対する抵抗性(耐津波性能)の変化を分析し,それを定量的に評価する。 2.免震建物の津波に対するリスク評価のためのデータベースの構築 国内に建設された免震建物の多くの情報は,日本建築センターが発刊するビルディングレターの性能評価シートに掲載されている。また,2011年12月の津波防災地域づくりに関する法律の施行をうけ,津波浸水予想や津波ハザードマップが多くの自治体から公表されている。これらの情報に基づいて,現存する免震建物の建設地とその地点の津波予想浸水深の調査を行い,津波に対するリスク評価のためのデータベースの構築を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究成果の発表を行うため,当初,構造工学シンポジウム(京都大学)への参加を予定していたが,研究の進捗状況の関係からこれを行わなかったため。 平成26年度分の助成金と併せて,研究成果の発表の費用として使用する。
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