研究実績の概要 |
本研究は,津波荷重に対する免震建物の構造安全性確保のための構造設計ガイドラインの提案を目的としている。平成28年度は,平成27年度から研究期間を延長し,津波荷重に対する免震建物の構造安全性の判定手法についてその適用性を検証するとともに,津波荷重の動的な作用と免震建物の応答の関係について分析した。本研究の成果は次のとおりである。 1.ビルディングレター(日本建築センター刊行)の性能評価シートより収集した約1,500棟の免震建物の情報から,免震建物は沿岸部にも相当数建設されていることが確認された。南海トラフ地震を想定した津波で浸水が予想される免震建物は,約60棟あり,2mを超える浸水が予想される建物は10棟程度であった。また,浸水が予想される建物に多く用いられている免震部材は,積層ゴムでは天然ゴム系積層ゴムと鉛プラグ入り積層ゴム,その他はすべり支承であった。 2.津波荷重に対する免震建物の構造安全性の判定手法の適用性を,共同住宅および事務所ビルを想定した2種類の10階建てRC造建物を対象に検証した。津波荷重に対する免震建物の終局的な挙動は,免震層の過大変形となる傾向から,本手法の妥当性が確認された。一方で,津波荷重が作用する層では,地震時を上回るせん断力が作用する場合があるため,免震層だけでなく上部構造についても,詳細な検討が必要となることが確認された。 3.津波荷重の時間変化を考慮した津波荷重の時刻歴モデルを作成し,その荷重に対する1質点系モデルの変位応答を解析した。応答解析は弾性理論解による方法と免震層の非線形特性を考慮した時刻歴応答解析によった。免震建物に及ぼす津波荷重の動的な作用は,津波荷重作用時に生じる衝撃力の作用時間と免震周期の関係によって大きく変化することが確認された。動的な作用によって免震層の応答変位は,静的荷重時に対して1.5倍程度増幅するケースも確認された。
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