研究実績の概要 |
本研究は、平成18年豪雪で木造家屋の倒壊被害報告を基としている。被害家屋は桁行架構が家屋の外側に倒れ、小屋組が崩落し、小屋梁端部の兜および断面中央の2か所で繊維方向に割裂が生じていた。研究代表者らは主架構に対する非線形解析結果から、割裂の発生が仕口の曲げ剛性を急激に低下させ、倒壊に至る架構全体の座屈を引き起こした可能性を指摘している。 既存木造家屋の耐雪補強法の一つの方針は、架構の座屈耐力を低下させ、部材間の応力伝達を不可能とする仕口部の破壊の防止である。仕口部の破壊パターンは幾つか考えられるが、研究代表者と研究分担者は小屋梁が桁梁より先行して割裂破壊するパターンに対して、小屋梁端部に補強材を巻き、割裂後の変形を拘束することによってせん断耐力の低下を防止する補強方法を提案した。本年度の研究課題は、梁-桁間の兜蟻仕口部のせん断試験を行い、提案された補強法の効果を確認することにある。 梁端部に鉛直集中荷重を作用させたせん断試験を実施し、補強材として紫外線硬化型FRPシートを採用した。実験パラメータはFRPシートの幅、重ね代の長さである。実験結果から得られた事項を以下に示す。 (1)幅80mmおよび40mmで重ね代50,20mmのシートを巻いた試験体のいくつかは梁下面のシートが剥がれ、荷重が5~10kN急激に低下する。(2)幅80mm、梁の両側面に重ね代150mmでシートを巻いた試験体は、シートの剥がれは見られず、急激な荷重の低下は見られなかった。(3)梁側面に貼付した歪ゲージの変化から、対象とした腰掛兜蟻仕口の破壊過程は、鉛直変位の増加と共に兜が持ち上がり割裂が生じ、その後、蟻のせん断変形と破壊、最終的に腰部の損傷と推察される。 以上の実験結果から、FRPシートを梁端部に巻いたせん断補強方法は、耐力の向上と最大耐力後の靭性に寄与することを明らかにした。
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