被災建築物の継続使用性を判断するための技術として,剛性を評価指標とする構造ヘルスモニタリングの早期実用化が望まれている。本研究では,建築物の剛性低下メカニズムにおいて従来は評価されてこなかった鉄筋コンクリート製床スラブのひび割れに着目して,スラブの荷重経験と剛性低下の関係を実験的に評価した。前年度までに,スラブ付き鉄骨梁(合成梁)の試験体や載荷実験システムを製作し,負曲げ載荷実験(スラブが引張ひずみを受ける荷重実験)を実施した。 平成27年度は,合成梁の剛性低下現象をより忠実に再現するため,負曲げと正曲げを交互に繰り返す交番載荷実験ができるように実験システムを改造した上で,スラブの設計仕様が異なる試験体6体の交番曲げ載荷実験を実施し,以下の知見を得た。(1)合成梁の剛性の載荷経験依存性を示すデータを取得できた。詳細には、弾性範囲の変形を経験した合成梁において、初回載荷時と二度目載荷以降で剛性が異なる非可逆的な低下傾向と、弾性範囲の微小な残留応力量に依存して剛性が変化する可逆的な低下傾向の、ふたつのメカニズムによる剛性変化を検出した。(2)ふたつの低下傾向を比較すると、可逆的な低下傾向の方が変化量は大きいことが観察された。(3)負曲げ載荷だけでなく,正曲げ載荷を経験することによっても,剛性低下現象の発生を確認した。以上に基づき,合成梁の弾性範囲での荷重経験に伴う剛性低下現象を実験的に確認できた。 なお,現行の建築物の設計体系では,本研究で着目する弾性範囲では剛性低下は発生しないと仮定される。しかし,近年,地震観測記録が数多く蓄積されるに伴って,弾性範囲内においてもコンクリート構造に剛性低下が発生することを裏付ける観測結果が増えつつあり,潜在的な課題となりつつある。本研究成果はそのメカニズムの解明に向けた材料実験からのアプローチとして貴重な知見を提供できるものと期待される。
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