研究課題/領域番号 |
25420606
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
岩瀬 昭雄 新潟大学, 自然科学系, 名誉教授 (30114391)
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研究分担者 |
杉江 聡 一般財団法人小林理学研究所, 建築音響研究室, 研究員 (00280644)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 吸音 / ヘルムホルツ共鳴器 / 低周波音 / 孔あき板 / 音響インピーダンス |
研究概要 |
研究課題のキーワードに吸音があり、これに関し、従来の構造と性能を超えた次世代型吸音材料が求められている。より単純に言えば,吸音周波数をより広げて、小型化と高吸音率を同時に得ることである。 本研究はヘルムホルツ共鳴器型構造の孔あき板開孔直後にチューブ状延長部品を付加して見かけ上板厚を増す効果を得るという研究代表者のアイデアをより実用的な形状寸法で実現することとその適用を計ることとを目標に掲げている。 孔あき板構造の孔面積を狭ばめ、背後空気層を深くし、開孔を設ける表面板を厚くして共鳴周波数の低周波数化が理論式通りに実現されることが本研究の前段階でも確認できていた。さらに開口部延長部品を付加して板厚の実効増加として捉えることも確認でき、より低周波数での吸音が実現できることが本格研究実施で把握できた。以上の通り、共鳴周波数を意図通り設定可能でも最も重要な吸音率特性は形状寸法の組み合わせで大きく変化して定められず、共鳴周波数での吸音率(高い1~低い0)を決定する音響インピーダンスの実数部値の制御設定法の確立がとても重要であると判明した。音響吸音に関わる専門書にもその関係の説明は単純で定性的な記述にとどまる例が多く決定要因を設定できない状態にあった。 本研究では、開孔口径の細太、背後空気層の淺深、延長部品の長短・折り返し型など、系統的に変えた試験体で共鳴周波数とともに吸音率の高低を観測し、共鳴時の抵抗地変化の系統的な変化傾向と周波数依存性を調べた。開孔部の相対音響抵抗が「1」を越えないことが、高い吸音率を得るに欠かせず、その逆に高い吸音率を得る条件として低い周波数で抵抗値は低くなる傾向、低周波数化を計るための開孔口径の狭さ、延長部品の長さには限界が想定されて、取り得る形状寸法の範囲のあることが研究の現状段階として判明した。これらの成果は日本音響学会で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、空調機や熱交換型温水器の室外機からの騒音が昨今の典型的な問題とされるように、低周波数騒音への対策方法が明確に示されない状況に少しでも明るい方向を示そうと、一般居室の天井や壁面にも採用できる吸音による対策手段として、ヘルムホルツ型共鳴機構の代表的な建築材料である孔あき板構造を基本に従来は、数百Hzで実現される高い吸音能力を数十Hzの周波数実現することを目標に掲げた。その場合、ヘルムホルツ共鳴器の設置で問題となるネック部の吐出や全体の厚さを減じることも欠かせない目標としている。共鳴周波数の設定だけならば、構造寸法は様々に組み合わせ可能で、薄い構造も可能となるが、高吸音が得られるかの疑問は少なくない。本研究では、音響管吸音率計測法を用い、小型軽量の形状寸法ながら吸音率の高い値を得られる方向性を見いだせるかで目標の達成度を以下の通り評価した。 (1)開口部の寸法を変えた試験体による音響インピーダンスや吸音率の比較計測を行った。その結果、共鳴周波数や音響インピーダンスの抵抗成分への影響は、開口総面積に加え、個々孔径の影響を受け、太い径ほど開孔端補正が加わる、細孔では共鳴周波数は低下して抵抗も無視できず増す。(2)共鳴周波数を低周波数化のために、孔径を細めると抵抗材を付加せずとも高吸音特性を示し、「1」を超えて低吸音特性となる。背後空気層を深くせずに低い共鳴周波数(例えば50Hz以下)と高吸音率は共存しがたくなる。(3)開孔を長く(深く)すると、共鳴周波数の低周波数化と抵抗増加となるが、開孔径を太く保ち長さを増す方が孔内壁での摩擦が少なく低吸音化が緩和される。(4)以上の考察から、厚さを限定の孔あき板吸音構造で低周波吸音を実現するには、背後空気層内に太く長い開孔延長部品を組込み付加する工夫が孔の狭小化より優位などと判った。以上の成果は2014年春季日本音響学会で報告した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果を基に、以下の通り研究を推進する。 ①高機能化と簡易化延長部品の提案 吸音周波数の広範囲化や高吸音特性が得られる形状や開孔周辺や開孔延長部品内に布状・紐状抵抗材の付加等の試験を行う。また夥しい延長部品の数の延長部品を一体ユニット化した施工が容易な形態を検討する。②軽量2重壁遮音性向上への適用 軽量2重壁への孔あき板構造挿入効果と延長部品による小型化を期待して、遮音性をより高めるモデルを検討し実験を試みる。新たな吸音機構の応用 国内外学会での反応も参考に、小型で低周波数吸音を可能とする構造の応用例を探り、シミュレーションや実証実験を行って適用範囲を拡大する。③板振動型低音吸音の究明 従来の低周波数域吸音である板振動型吸音機構を対象に粒子速度計測を適用して板厚や木枠の深さ、板材料背後の空気層内へ多孔質材料の挿入・面材料への質量付加の効果を調べるとともに反射吸音特性が皆無の状態と言えるデータの不足を解消する。 さらに学会での反応を参考に、④小型低周波数吸音構造の応用例をより広く探り、可能な限り実験実証を行い、適用範囲の拡大を追求をする。この場合、協力研究員を含む我が国の建築会社の技術陣が精力的に取り組む低周波数成分が支配的な各種現実の課題の解決方法にこれらの成果にもとづく新たな提案を目指す。⑤板振動型低音吸音特性データの蓄積 音楽ホール等の低周波数領域の残響制御を担う木枠に板材料を張上げた振動機構の音響インピーダンスデータについて、未解明な点を整理し、可能な解明研究を行う。本研究の主題の共鳴器型と多孔質形を含め全3種類の吸音機構の音響特性計測データについての、広く室内音場の解析や音場制御のシミュレーションに適用できるデータベース化も試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初は、設備備品として粒子速度と音圧を同時観測して音響インピーダンスを計測するセンサーを購入する予定であった。しかし、数多くの試験体試料の必要性が明確になり、そのためにアクリル板を加工して種々の孔あき板を作製するため卓上旋盤や卓上ボール盤をはじめとする工作機械等が必要と判断して、まずこれらの機械を購入した。そのため、当初の設備備品を十分な予算的余裕を持って購入し設置することが不可能と判断した。この当初購入予定備品機種はきわめて繊細な扱いが必要であり、その対策や研究遂行の進捗状況も併せた判断も必要であり、最終的に購入すべきか否かを保留して予算執行に至っていない。粒子速度と音圧を計測する同様で、3次元同時計測できるより高い機能を有している優位な既存設備が新潟大学にあり、それを代替使用することでも研究に大きな支障は生じないと判断している。 当初計画に掲げた未購入の設備機器を研究目標の高い達成のために、購入するべきかしない方が良いかの最終判断は今現在行えていない。2年度目の研究推進状況を十分考慮しつつ当初計画通り設備を購入するか、より有効な試験体、応用研究を効果的に行うために整備した方が良いと考えられる実験装置の充実ための別の物品を購入するかの判断を行い、最良の研究成果を得ることとしたい。最も有効な形状と判断できる試験体試料の製作費のため予算、あるいはこの吸音構造の最適応用先をシミュレーションするための小型模型残響兼無響箱等の製作費に当てる使用変更も考えている。
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