研究課題/領域番号 |
25420613
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研究機関 | 日本工業大学 |
研究代表者 |
三坂 育正 日本工業大学, 工学部, 教授 (30416622)
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研究分担者 |
成田 健一 日本工業大学, 工学部, 教授 (20189210)
酒井 敏 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 教授 (30144299)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ヒートアイランド / 適応策 / 温熱快適性 / 日射遮蔽 / フラクタル日除け / 対流熱伝達率 / 実験 / 数値解析 |
研究実績の概要 |
ヒートアイランド対策としての「適応策」の推進では、日射遮蔽による温熱快適性の向上が重要である。日射遮蔽技術としてフラクタル日除けが開発され、その下部では温熱環境的により快適な空間が形成できる可能性が高い。本研究は、フラクタル日除けの熱的な特性や快適な空間を形成するメカニズムを、実験により明らかにすることを目的とし、初年度に引き続き放射・熱収支の評価を中心とした試験体による実験を行った。 実験は、日本工業大学内都市スケールモデルサイトに試験体を設置して行った。アルミ板を用いた3分割試験体と樹脂性試験体を用いて、試験体69個を上下2段に接続した連結型ユニットで実験・測定を行った。 アルミ試験体実験では、黒・白の2種類の連結ユニットを用いて、放射特性が異なる2つの試験体の熱収支式を連立させる熱収支連立法で対流熱伝達率を算出した。熱収支連立法で得られた対流熱伝達率は、ろ紙法や熱収支残差法による対流熱伝達率とほぼ同様であり、フラクタル日除けがその形状の特徴から対流による放熱特性に優れていることを再確認した。 次に、市販の樹脂性試験体の放射・熱特性の実験による評価を行った。放射特性は放射収支測定により評価し、熱特性としての対流熱伝達率の評価は熱収支残差法で行った。樹脂性試験体には熱容量があるため、蓄熱量の評価手法を確立することで、樹脂性試験体の対流熱伝達率を算出した。これらの結果より、樹脂性の製品であるフラクタル日除けを用いた空間の温熱環境予測に必要な放射・熱特性をパラメータ化することができた。 また、フラクタル日除けを用いた空間の温熱環境の数値解析予測に関して、単純な1次元熱収支モデルによる計算と試験体実験の結果を照合し、評価手法とパラメータ化の妥当性を検証した。さらに、汎用シミュレーションツールによる予測可能性について、入力条件の整理・修正による解析の可能性を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画においては、初年度の実験で行ったフラクタル形状日除けの熱的な特性について、さらに詳細な放射・熱収支測定を行うことを計画していた。アルミニウム板試験体を用いた初年度の実験において明らかとなった、フラクタル形状日除けの放熱特性に関して、別の評価手法である熱収支連立法を用いた実験・解析を行うことで、初年度の結果について再確認した。 さらに、2年目においては、市販されている樹脂製品を対象とした放射・熱特性を明らかとすることを目標として実験・解析を行った。初年度に行った、アルミニウム板試験体実験の手法を適用することで、日射の反射・吸収・透過の特性や赤外放射率等の放射特性、表面温度が上昇しない理由としての放熱特性を明らかにできた。 また、フラクタル日除けを用いた空間の温熱環境を予測するためのシミュレーション方法について、次年度以降に実施する市販の汎用屋内外総合熱環境シミュレーションソフトを用いた数値解析方法について検討を進めた。標準仕様では解析が不可能なフラクタル日除け下空間の温熱環境を計算するために、入力パラメータの整理・変更方法を検討することで解析が可能になることを確認できた。 以上の通り、フラクタル日除けの放射特性や放熱特性の実験による評価ならびに温熱環境予測手法の検討に関して、ここまでの2年間で目標としていた内容に対して、ほぼ計画通りに達成できているものと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
ここまでの2年間で、フラクタル日除けの表面温度上昇が抑制されるメカニズムに関して、放熱特性である対流熱伝達率の実験による評価を行うことで、その要因を確認してきた。また、フラクタル日除けの放射・熱特性についても、実験から得られた特性から数値解析に必要なパラメータとしての整理を進めてきた。 最終年度は、2年間の実験結果を踏まえ、市販の汎用屋内外総合熱環境シミュレーションソフトを用いたフラクタル日除け下空間の温熱環境予測手法の確立を行う。シミュレーションソフトの標準仕様の状態では日除け下空間の解析が不可能であるため、気象条件をフラクタル日除け下の放射条件として修正して与えることで解析が可能となることを確認している。当初は、都市スケールモデルサイトでの実験結果をシミュレーションで再現することで、実空間での適用に向けた精度の検証を行う。その後、実際の建物周辺にフラクタル日除けを適用した場合の温熱環境改善効果のシミュレーションによる予測手法として確立させる。 さらに、フラクタル日除けを屋外空間に活用する場合の温熱環境の設計・評価手法を、ガイドとしてまとめることを目標としている。そのために、フラクタル日除けの熱・放射等の特性の実験によるパラメータ化の手法やその特性を活かした活用方法、温熱環境シミュレーションにおける解析手法等について整理を行う。 以上の成果を取りまとめ、屋外空間を積極的に活用していくための温熱環境の目標設定の考え方と、その環境を実現するための設計・評価手法を提案し、都市・建物計画の指針案としてまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度使用額は、フラクタル試験体として購入したアルミ試験体の製作費用が、昨年度製作したものの追加として発注することで費用が低減できたため生じたものであり、研究の実施内容は当初の目標をほぼ達成できている。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、当初の計画通り、主にフラクタル日除けを用いた空間の温熱環境の数値解析とその検証のための追加の試験体実験に使用する消耗品に伴う費用、分担研究員の実験・打合せのための国内移動費として使用する予定である。発生した次年度に使用する研究費については、数値解析や試験体実験に伴う費用に充当して使用する予定であり、研究計画に変更は無く、前年度の研究費も含め、当初の予定通りの計画を進めていく。
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