城下町都市にとって、近代化の過程は濠の埋め立ての歴史でもある。その契機は不衛生、交通の妨げなどの理由や、宅地化、道路・鉄道の敷設などである。近代の都市づくりにおいて、こうした取り組みが進む一方、市民サイドからは史跡保存のために埋め立て反対の運動や世論の高まりなどがあった。小田原をはじめ、そうした各地の事例を調査した。 城址において天守は象徴的な文化的景観である。藩政期の天守が存在している、あるいは戦前に存在していた城址を中心に、その保存天守の取り組みや利用方法などに関する調査を行った。並行して近代の天守といえる模擬天守閣の建設についても事例調査を進めた。模擬天守閣は近代都市景観の創出を意図しているが、都市建築として都市社会における利用を想定した意義もあった。また構想のみに終わった、いわば幻の模擬天守閣の計画を抽出し、その背景や意図、そしてなぜ実現しなかったのかを分析した。 城下町都市において城址は文化的景観の資源である。この城址の土地利用はすぐれて近代化における都市づくりの性格があらわれる。すなわち既存樹木などによる風致や濠・石垣・土塁等の遺構の保存を含む文化的景観と近代的土地利用による景観形成の相克がみられる。特に城址における近代的土地利用の一つである公園化に着目して、その契機や背景、初動期の取り組みを明らかにするとともに、公園設計や公園整備と風致・遺構の保存との関係を明らかにした。
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