研究課題/領域番号 |
25420646
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研究機関 | 福山市立大学 |
研究代表者 |
岡辺 重雄 福山市立大学, 都市経営学部, 教授 (70618131)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 伝統的建造物 / 建築基準法 / 行政・制度 / 越境屋根建築 |
研究実績の概要 |
本研究は、越境屋根建築に関わる建築基準法の解釈と運用に関しての概観を理解することを目的としている。初年度は中国地方の重要伝統的建造物群保存地区を訪ねて越境屋根建築の存在状況を確認し、該当する地方公共団体にヒアリングをして、各行政の取組を調査した。この成果を元に、平成26年度には全国の重伝建地区を対象としたアンケート調査を実施し、建築基準法適合の有無、対応策に関しての各地自治体の状況を整理しつつ、特徴的な地区に対するヒアリングを実施して、越境屋根を建築基準法で可能にする方策を検討、整理した。 アンケートは対象とした108地区のうち92地区から回答を得た(回答率85%)。回答の中で、隣地境界部分に問題を抱えている地区は約半数あり、普遍的な課題であることが認識された。その中で、越境屋根の建築様式が一般的及び時々見られる41地区を対象に建築基準法適合の有無、対応策に関しての各地自治体の状況等を細かく分析した。ケラバが越境し、屋根が重なるのは雨仕舞の面で有益であり歴史的様式として重視している地区がほとんどであり、現状保存が原則とされているものの、多くは、建築基準法との軋轢をさけるため、建築確認が必要のない改修に留めている傾向がある。建築基準法への適否については、自治体で理解が分かれたものの、越境屋根を直接的に違法とする条文は存しないが、敷地設定の疑義により、ケラバ越境が切除される事例も確認できた。 平成27年度は、学内において入試関連業務担当となったことから、研究を深める時間がほとんど取れなかったが、学内で可能な業務として、成果を学会論文に纏めた。日本建築学会の査読を経て、平成28年1月の論文集に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の予備的調査を経て、平成26年度には全国の重伝建地区を対象としたアンケート調査を実施し、建築基準法適合の有無、対応策に関しての各地自治体の状況を整理しつつ、特徴的な地区に対するヒアリングを実施して、越境屋根を建築基準法で可能にする方策を検討、整理した。対象は5つの市(10地区)の伝建地区担当者にヒアリングを行った他、10地区の現地調査を行った。 研究3年目にあたる平成27年度は、これまでの成果を元に、「重要伝統的建造物群保存地区内の隣地越境屋根建築を保全する際の建築法令における対応策の研究」と題する論文にまとめ、日本建築学会に投稿し、査読審査、修正を経て、平成28年1月の建築学会論文集に掲載された。研究3年目は、学内において入試関連業務担当となったことから研究を深める時間がほとんど取れず、本成果を福山市鞆地区への応用する実践研究については、福山市への成果報告程度に止まっている。そのため、期間延長を申請し、認められたところである。 以上より、研究目的は概ね達成されたものの、若干の課題が残されているため、「おおむね順調に進展している」と評価する。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度までの調査で、越境屋根建築を建築基準法に抵触せずに保存する方策を整理し、学会論文に取りまとめたところである。 平成28年度は、これまでの成果を元に、積み残し課題である福山市鞆地区での適用可能性を、福山市の建築指導担当、伝建地区の文化行政、都市計画行政、建築指導行政の各担当者との議論を通じて検討したい。しかしながら、鞆地区はいわゆる架橋問題のしこりが残り微妙な状況であることから、市役所の伝建地区の取組が必ずしも良好ではないため、本研究の進展は容易ではないことが予想される。 また、全国の伝建地区の補足的な視察を行うとともに、建築学会等の建築法制専門家等と議論して方策検討の水準を向上したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度においては、学内で入試関連業務の担当となり、学外調査が行えなくなったことから、旅費を中心として予算が執行できなかったものである。
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次年度使用額の使用計画 |
研究途中のアンケート調査において、隣地越境屋根建築の存在が確認されている伝統的建造物群保存地区を中心に、10カ所程度の地区を訪れ、状況確認を行うこととする。
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