昨年度に引き続き、2000年代後半以降に開設した小規模生活単位型の特別養護老人ホームを対象として、実態調査を遂行した。小規模生活単位型の空間構成を活用してよりよいケアを実施したいという施設側の意向を汲み、今後の環境改善に繋げていくという共通了解をとった上で調査を行ったものである。昨年までの研究・調査の結果、小規模生活単位型として質の高いハードを備えながらも、環境の使いこなしが不十分な段階にあり、スタッフの環境改善の意欲も強くないことが把握されている。 今年度は研究の最終年度として、施設側とのワークショップを行い、施設スタッフの協力のもと、実際にさまざまな家具やディスプレイを共用空間内に持ち込み、レイアウトを行う環境改善の作業を行った。これまでの調査結果を活かし、入居者が自由に立ち寄り居心地良いと感じられるような居場所を設けること、共用空間における多様な行為を引き出しコミュニケーションのきっかけとなるようなディスプレイコーナーを設けること、の2点の達成を目指したものである。改善前後の比較調査を実施するとともに入居者・スタッフへのヒアリングを行い、入居者の生活の質にどのような影響を与えたか、生活のバリエーションを促すことができたのか、ケアの質に何らかの影響を与えたのか、について分析・考察を行った。 全体としてみると、大きな変化をもたらしたとは言い難いが、個人に注目すると、新たな行為の場面を見て取ることができた。スタッフからも、入居者の落ち着が上がった、リビングで話のきっかけが増えて声をかけやすくなった、などの意見を得た。加えて、スタッフ自ら環境に手を加えてみようとする意識が現れてきた。自分の工夫が入居者の目にとまり、入居者からの反応を引き出すことができたことが、意識の変化につながった可能性がある。
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