被災地の文化遺産とともにあるコミュニティの価値は、人々の生活と有形無形の文化遺産が一体となったリビングヘリテージにある。しかし、リビングヘリテージの実態は不明確で、復興の過程で、知らぬ間に失われてしまうといった事態が予測される。 本研究は、地域に密着した文化遺産である社寺等と人々のつながりの事例から、復興を支える基盤となるコミュニティ存続の知見を得るとともに、高台移転などで生活圏が移動しても、地域の歴史的環境を存続させる方策を検討することを目的としている。 3年目である2015年度は、前年度作成した記憶地図の進化を目的に「祭礼実施実態調査」、各神社を支える「氏子範囲調査」を行った。加えて、「地名および言い伝え調査」を実施し、先人が将来の我々に残した防災の知恵の収集を試みた。そして、新たなまちづくりに祭礼を継承するための「計画案の作成」を行った。 被災地では、我々が作成した「記憶地図」を媒介として、従来、意欲はあっても祭礼の担い手となるのが難しかった若年層が、祭礼の再興に向けて活動を始めている。本研究を通して、祭礼の詳細やかつての実施状況の記憶を記録することが、地域の記憶の共有、地域が守り育てた有形無形の歴史的環境を継承し、ひいてはそこにしかないコミュニティを回復する一助となることが確認できた。 ヒヤリングにおいて、将来の安全性を目的に、防潮堤の建設、地盤の嵩上げが進み、自分がどこにいるかわからないと不安そうに語る声を聞いた。土地形質は変容しても、過去から継承してきた祭礼の継承は、人々のアイデンティティ回復のためにも急務である。祭礼の継続には、コミュニティの再興とともに、それを可能とする場の回復が重要である。今回の研究では、これについて計画案を作成した。これをいかに実現していくかが、課題として残った。
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