平成29年度は研究期間の最終年度として、これまで把握した耐震化方法の体系化をおこなった。その結果、濃尾地震の被害報告とそれに基づいた震災予防調査会での議論により、耐震化方法として次のことが提案された。 1点目、木造建物については、1)土台の設置、2)筋違の挿入、3)部材の緊結が示された。これらは、震災予防調査会によって、木造建物のひな型が建物用途別に作られ、実際にそれが帝室博物館で展示さ、社会に対して普及を図る工夫が施された。そして、庄内地震で多数の木造校舎が被災した山形県に対し、震災予防調査会は筋違を用いた補強案を示した。2点目、煉瓦造建物について、濃尾地震と明治東京地震での煉瓦造建物・煙突の被災を基に、1)煉瓦壁体を鉄棒や鉄帯で補強すること、2)煉瓦目地にセメントモルタルを用いること、が指摘された。後者は、明治芸予地震(1905年)における呉鎮守府構内での建物被災状況によってモルタル目地の有効性が示されたことが当時の被害報告に記されている。 これらの耐震化方法は、軸組造を前提とした木造建物にあたっては、軸部の強化という方法に収れんし、組積造(壁構造)である煉瓦造にあたっては煉瓦壁体の一体化という方向に収れんしたといえる。 一方、木造建築は日本において1500年程度の歴を有して居るが、その中での耐震化の歩みを見ると、貫や長押による軸部の補強と同じ方向性を持っていたといえる。また、煉瓦造について、その歴史が長いイタリアなど欧州諸国で用いられてきたタイ・バー(Tie bar)による補強と同じ方向性であったといえる。 そして、木造建物の耐震化手法は、今日でも続いている方法である。その点を考慮すると、今日の木造建物の耐震化方法の原点は、濃尾地震から湖北地震に至る目地時代後半の大規模地震の被災状況がもたらしたものといえる。
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