研究課題/領域番号 |
25420669
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
松田 剛佐 京都工芸繊維大学, その他部局等, 助教 (20293988)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 木材生産 / 木材流通 / 建築材料 / 近世建築 / 天竜川水運 / 木曽勘定書 / 銘木 / 伝統建築 |
研究実績の概要 |
日本の森林に関する既往研究を渉猟し、建築材料としての木材を主眼に分析することで以下の知見を得た。戦国期の後、木材使用が著しく増加した。例えば応仁の乱の104年間では城下町111町ほどの建設がなされたのに対し、近世の全国統一がなされるまでの18年間では90町ほどと、その建設ペースが5倍程となっていた。17世紀の全国的な木材消費は、秀吉による諸国からの木材調達が嚆矢で、伏見城用材等は米代川から長6尺6寸~2間5尺5寸・幅1尺6寸~1尺9寸・厚4寸5分~6寸のスギ板の大材が年間750枚6年にわたり生産された。家康直轄後の木曽代官による「木曽勘定書」では駿府城用材が確認でき、ヒノキ6尺~1尺角・長2~3間の大材6,940本とサワラ大板2,000枚他が毎年3年にわたり出材され、名古屋城用材は37,974本に及んでいた。全国的な木材生産の拡大は、商人の進出及び市場の形成を加速した。特に元禄期の経済成長は、インフレ誘導としての公共事業で寺社の修改築が多く行われ、伐木運材技術も進展した。しかし17世紀後半には森林資源の枯渇が深刻化し、出材数は明らかに減少する。天竜川筏では17世紀後半の年間273乗から18世紀中期は9乗と激減、天竜榑木の規格は小さく、サワラ以外の材種容認へと移行した。この様な状況が打開されるのは18世紀半ばに本格化される全国的な育林事業によるもので、大堰川では17世紀の筏数の4倍から10倍までに回復した。山国・吉野・尾鷲等の造林地帯が、銘柄という付加価値を伴い人工林化するのも、造林コストと市場の動向との不可分の動きである。なお既往研究を概観すると、近年環境問題の視点によるものが増え、森林管理と活用の歴史を考察する試みが注目されつつある。木の文化を有してきた日本においては、森林利用の最たるものが建築材料であったことを考えると、本研究の今日的意味が重要となっていると再確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は類例の少ないテーマであるので、直接参照可能な既往研究が少ない。また、対象と考えうる一次史料は膨大な量と考えられる。このような問題点を克服し、本研究の方向性を常に検証しながら、適切な研究成果を得るためには、直接的な検証に寄与しなくとも、僅かでも関連するような周辺学問領域の既往研究を、なるべく数多く参照しなくてはならない。しかし、周辺学問領域の既往研究を深く理解するには、いわゆる専門外の知識が必要であるので、その分析に時間を取られがちとなってしまう。本年度はこのような困難を乗り切るべく、できる限り既往研究を渉猟したことで、周辺学問領域との関連を検証することが出来、本研究のテーマの独自性をより明確にすることが出来た。一次史料の発掘は、やや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に周辺学問領域との関連を広く検証し得たことで、次年度以降の一次史料の発掘に明確な方針をたてることができた。すなわち、17世紀と18世紀では、木材生産の社会背景と経済構造が大きく変化していること、それは森林資源の減少が大きな原因であること、また木材市場の形成は、近世初頭以来の領主的木材生産の延長上にあるため、地域により状況が大きく異なること、更にいわゆる銘柄木の登場は、森林減少からの回復期の、木材生産のコスト増と密接に絡んだ付加価値の追求の結果であるとこ、等を念頭におかなければ、木材生産の状況は一律に比較検証できないことが明らかになった。次年度以降は今年度のこのような成果を手掛かりとして、新たな一次史料の発掘に注力するものである。
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