研究課題/領域番号 |
25420670
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
杉本 俊多 広島大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00127664)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | カール・フリードリヒ・シンケル / ペーター・ベーレンス / パーゴラ / 骨組構造 / 新古典主義 / ベルリン / モダニズム |
研究実績の概要 |
ベルリン・モダニズム建築の形成過程について,19世紀初期からの系譜を分析整理することを目標に,本年度は特に建築物の構成主義的な立体構成デザイン手法に関して,以下の分析作業を行った。 1.カール・フリードリヒ・シンケルによる19世紀前期の宮廷別荘建築にはパーゴラ(ぶどう棚)が多く見られるが、これに類似する立体的な骨組構造をパーゴラ型骨組構造と定義し、抽象的な建築構成理念が成立する過程を分析した。その結果、パーゴラ型骨組構造がシンケルの学習時代、20歳代前半におけるシシリー島を含むイタリア旅行等でのスケッチ群が注目できることを明らかにした。またパーゴラ型骨組構造は文字通りのぶどう棚のほか、重厚な新古典主義的な骨組構造、格子状の庇屋根構造等のヴァリエーションを示し、壁式構造に代わる普遍的な構造理念として確立しつつあったことを示した。そしてそれらが「シャルロッテンホーフ宮」、同古代別荘建築風増築計画、「宮廷庭師の家」、「グリーニケ宮」に反映する経過を分析整理した。 2.シンケルの影響を受けたペーター・ベーレンスが20世紀初期にデザインした建築作品について、パーゴラ型構造物の影響を分析整理した。特にヴィーガント邸の三種のパーゴラについて整理した。またパーゴラ型骨組構造がヴァルター・グロピウスのファグス靴型工場、ドイツ工作連盟ケルン展モデル事務所におけるガラス・カーテンウォール、またミース・ファン・デル・ローエの住宅建築からノイエ・ナツィオナール・ガレリーに代表される鉄骨骨組構造となど、普遍的な骨組構造建築へと昇華される過程を仮説的に提示した。 3.昨年度のドーム型構造に関する研究の発展として、ブルーノ・タウト、エーリヒ・メンデルゾーンの曲面的な建築構想について、その造形手法をパラメトリック・デザイン手法でシミュレーションし、ロマン主義的な建築デザイン手法として分析整理した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度においては、19世紀初期のシンケルによる解放戦争記念施設構想群における記念堂計画案と20世紀初期のブルーノ・タウトによるユートピア建築構想を比較対照し、両者の間に通底するものを指摘した。2年度においてはシンケルの別荘建築群における、パーゴラを含む骨組構造に着目して20世紀初期のペーター・ベーレンス等の骨組構造を比較し、合理的な骨組構造の系譜を見出した。両者は建築におけるロマン主義思想の継承、新古典主義思想の継承として解釈することができ、新古典主義とロマン主義が並行して建築文化を形成していたという構造が具体的に見出された。ベルリン・モダニズム建築の形成過程につて再定義を試みる本研究において、このことが基本的な土台を構成することとなると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの2年間の研究成果は建築の本質における二面性に着目するものであり、両者を総合するべく統合的な視点を見出す必要がある。本年度は最終年度として、2年間の成果を論理的に整理し、文章化する予定である。その際に建築作品・構想について詳細な検討を加えることとなり、部分的にデータ上の不足が見出されることが想定される。執筆整理を行いつつ、補足的に歴史的資料の保存する資料館等を訪問しての資料の補足、また建築作品の現地調査を行う。それをもとに、本研究計画のまとめとして研究報告書を作成、印刷する予定であるが、その際にはベルリン・モダニズム建築の形成過程について幅広い視野で見渡し、長年にわたる研究活動を通して得た知識を駆使し、固有の視点で多面的に論じることを構想している。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究補助のための人件費、歴史的図面資料の撮影料を予定していたが、結果として必要とならなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
補足的にドイツの現地における資料調査、建築作品の調査を実施する必要が生じたため、繰越金は旅費に充てることとする。
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