研究課題/領域番号 |
25420672
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
吉武 隆一 熊本大学, 大学院先導機構, 特任助教 (70407203)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ギリシア / ローマ / 劇場 / スカエナエ・フロンス / 装飾 |
研究概要 |
本年度は、ローマ時代の建築装飾の関連文献を収集しながら、メッセネの劇場およびその周囲のローマ時代の劇場型建築に見られる建築装飾を分析した。ギリシア古代都市メッセネのスカエナエ・フロンスの建設年代は、これまで発掘者による不十分な根拠に基づいて、後2世紀半ばから後3世紀頃とされてきたが、今回の分析の結果、むしろ後1世紀後半の特徴を持つことがほぼ明らかになった。 3層からなるメッセネ劇場のスカエナエ・フロンスは、大理石の豊かな建築装飾で飾られていた。ペデスタルまたはポデュウムの上に立つ円柱は、アッティカ風のイオニア式礎盤の上に色大理石または玄武岩の円柱を乗せ、コリント式、イオニア式、ロータス・アカンサス式の3種の柱頭を置いた。これら3つの柱頭は、いずれも後2世紀半ばではなく、後1世紀の特徴を備えており、ギリシアと小アジアを中心に類例がある。アーキトレイブはアストラガルとレスビアン・キーマで装飾され、フリーズにはアカンサスとロータスで装飾されていた。これらの建築装飾は、ギリシアと小アジアに多くの類例があり、それらの多くは後1世紀の後半であることがはっきりしている。とりわけ、メッセネの劇場のスカエナエ・フロンスの建築装飾は、スパルタの劇場のスカエナエ・フロンス、およびコリントの「捕虜のファサード」の建築装飾に極めてよく似ており、スパルタとコリントの建物は、いずれもフラウウィウス朝の建物であることが、碑文や建築スタイルなどからほぼ確実と考えられている。メッセネの劇場のスカエナエ・フロンスは、したがって、後1世紀後半であることがほとんど確実であり、厳密にはクラウディウス帝の頃からヴェスパシアヌス帝の頃にかけて、すなわち後1世紀半ばから第3四半期の終わりまでのものと考えられることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
メッセネ劇場のスカエナエ・フロンスの建築装飾と、重要な比較例であるコリントやスパルタの劇場のスカエナエ・フロンスの建築装飾とは、これまでの現地調査で比較的詳しい資料の蓄積があったため。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、メッセネ劇場のスカエナエ・フロンスの建築装飾は、同じペロポネソス半島にあるスパルタの劇場のスカエナエ・フロンスや、コリントの「捕虜のファサード」の建築装飾に極めてよく似ていることが分かっており、これらの建物はいずれもフラウウィウス朝の建物であることがほぼ確実と考えられている。したがって、メッセネのスカエナエ・フロンスは、後1世紀後半である可能性が極めて高い。コリントのアゴラの建築装飾における新たな編年(後1世紀後半)は、ネロ帝のギリシア訪問の時期と関連性が指摘されている。そこで、今後もギリシア本土におけるローマ型劇場建築の建築装飾の資料を現地調査などで補充すると共に、さらに小アジアのローマ建築の建築装飾のデータを集め、東地中海におけるローマ型劇場のスカエナエ・フロンスの建築装飾の編年分析をすすめる。
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