研究計画に基づき、前年度までに実測調査した美濃加茂市、犬山市の洋風建築の事例に加え、新たに洋風の意匠と架構を採用する揖斐川町の事例4例を遺構に即して分析した。前年度実績状況報告書に報告した繰り越し物件を含んでいる。今年度分析物件は、別途実施された岐阜県揖斐川町町並実測調査に合わせて実施したものである。濃尾地震(明治24年)で被害を受けた地域であり、震災復興を契機とする洋風意匠の導入実態と耐震補強などの技術の導入実態について、本科研の目的に合わせて追加の調査を行い事例的に分析した。遺構に即してみるかぎり、斜材(筋交い)や擬似トラスの導入など、技術的な導入は先行して進み、洋風意匠に関しては、昭和に入ってから一般化した傾向が指摘された。この成果については3月7日開催の「技術革新科研研究会」で報告した。 最終年度である本年度の後半では、今年度調査物件とともに前2年度の成果をあわせ、時代や地域的な特性からの考察として、架構と意匠でどういった形式が採用され相互にどこで関係しているか、関係していないのか、洋風の技術と意匠がどのような形で浸透し、いつまでどのようにして継承されたかを分析した。濃尾地方における洋風の意匠と架構の展開過程を歴史的に理解するため、『折衷様風建築設計図集』(明治44年)など明治後半から大正時代にかけての建築設計技術書にみられる意匠と架構に関する傾向と比較分析した(分析の予察は昨年度に報告済み)。地方においては意匠的な和洋の相違を問わず、斜材補強やトラスなどの構造革新が進んだ一方で、洋風意匠に関しては、そのような構造とは切り離される形で導入される傾向が指摘された。このような地方の実態は、近代の歴史的建造物の保存活用を考える上での評価の視点として改めて重要であることが確認された。
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