研究課題/領域番号 |
25420679
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
速水 清孝 日本大学, 工学部, 准教授 (90615501)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | アントニン・レーモンド / 設計スタッフ / 構造技師 / ヤン・ヨセフ・スワガー / 内藤多仲 |
研究概要 |
本研究は、日本を中心に建築作品を造り、モダニズムの展開に大きな足跡を残した建築家アントニン・レーモンドの第二次世界大戦前の設計について、それを支えたスタッフによって構成される設計組織に焦点を当て、設計手法の展開を探ろうとするものである。 平成25年度の研究では、まず、フランク・ロイド・ライトの下から独立した大正10年以後、戦前のレーモンドの設計スタッフを、諸文献や原図に記されたサインから明らかにすることを試み、また、その組織の規模と変化と特徴を把握した。これによって、独立からほどなく、30人を超えるスタッフを抱える組織に成長すること、スタッフの構成が、外国人主体から関東大震災を機に日本人主体へと変わることなどを明らかにした。 続いて、構造スタッフがどのように変わるのかを考察し、外国人構造技師から内藤多仲門下の早稲田大学出身者に変わっていく様子を明らかにした。さらに、近年まで謎の存在だったチェコ人スタッフ、ヤン・ヨセフ・スワガーの、レーモンドにとっての位置づけを明らかする試みに、予定を前倒しして着手した。関東大震災直後という事務所の体制が刷新される過渡期にスタッフとなったスワガーは、しかし、力量の面でレーモンドの期待に応えられず、聖路加国際病院の設計を機に袂を分かち、独立することになるが、これまでレーモンドの証言からしか知ることのできなかったその独立の原因を、スワガーが携わった建築作品の分析を通して、信仰的背景や建築設計に対する思想の違いが影響した可能性があることを指摘することができた。 また、こうした分析を通して、レーモンドが戦後提唱する近代建築の5原則の成立過程を解明する手がかりが得られつつある。 以上が平成25年度の成果となるが、建築家だけでなく、その周辺を見ることの重要性を考えて始めた研究が、その重要性を確認できつつあり、その意味で意義深い研究となっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アントニン・レーモンドに関する研究はこれまでにも多く、得られる資料も時間とともに失われることから、すでに新たなことが知り得る余地がないと思われる嫌いもあった。また、ヤン・ヨセフ・スワガーについては、すでに経歴を明らかにする研究が現れているが、それ以上に分析する手立てがないように思えていた。 しかしながら、平成25年度の研究で、従来の研究では活用されずにいた図面資料の分析に着手したことで、それを手がかりに、多くの次につながる成果を得られつつある。 このことは、それなりに予想はしてはいたものの、おおむね予想した成果を得ることができ、研究の進捗は極めて順調と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度の研究で、スタッフはじめ設計に関与した人物に注目することの意義が確認できたため、平成26年度と27年度の研究では、これをさらに推し進めていく。 具体的には、まずスタッフとなった人物の把握と把握できた人物の経歴調査の継続がある。また、モダニズムの建築にとって無視することのできない構造技師の存在をさらに知るため、スワガーの研究を継続し、さらにこれに携わった内藤多仲とその門下生の経歴と設計に対する思想の把握に努める。これによって、レーモンドに与えたスタッフの影響をより正確に把握する。 そしてまた、アントニン・レーモンドの図面資料の分析をさらに進めていく。これによって、設計思想の分析を当時の設計の標準と比較するなど、従来以上に深めていくことに努める。 なお、これらの資料の調査分析にあたっては、資料の貴重さに照らして、この適切な保存を考慮して、デジタル化に着手することを予定している。
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次年度の研究費の使用計画 |
購入を予定した高額図書の発行が遅れたことや、購入を予定した図書の購入を他との兼ね合いで後回しにしているうちに年度が改まってしまったことのため。 予定していた高額図書が発行されたことを確認したためこれを購入し、購入を後回しにしてしまった図書も購入する。
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