研究課題/領域番号 |
25420680
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
深見 奈緒子 早稲田大学, イスラーム地域研究機構, 教授 (70424223)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | インド洋 / 建築 / 歴史 / イスラーム / 島嶼部 / 宗教 / 文化の積層 / 環礁 |
研究概要 |
インド洋海域島嶼部に残るイスラーム教徒のモスク、墓建築、宮殿建築をリスト化し、建築技法と様式の伝播、受容、折衷を明らかにすることが本研究の目的である。 本年度は、モルディブ諸島に残るサンゴ石造のモスク調査を行った。写真撮影、図面作成、聞き取りを行うと同時に、文献の収集に勤めた。北はハー・アリフ環礁から、南はアッドゥ環礁まで、その距離は800キロメートルに及ぶ地域を対象とした。ジャメール・マールーフによって既報告の21件のサンゴ造モスクのなかから、12件のモスクを調査することができた。加えて、イスラーム以前の仏教ストゥーパの遺蹟を訪問した。また、マーレの博物館において、ヒンドゥー遺構や仏教遺構から発掘された遺物を観察した。 モルディブのモスクは、基本的には基壇の上に壁にサンゴ石を用い、柱と屋根架構を木材とする。本来は草葺き屋根が架かっていたが、現在では金属板に置き換わっている。最も単純なものは内部に柱をもたない一室構成のものである。複雑化は、①内部に柱を立てる(基本的には4本)、②キブラ側にミフラーブ室を設ける、③キブラ壁を除く3方に側廊を回す、④部屋を前後2部屋とするという方法があることが判明し、それぞれの実例を調査することができた。最も、複雑化したのはマーレの金曜モスク(1658年建造)で、全ての要素を備えている。 平面構成と屋根架構に加え、サンゴ石や木材に刻まれた彫刻、ろくろ細工など、インド西海岸のケーララ地方のヒンドゥー建築とモスク建築、スリランカの仏教建築との関連性が考えられた。また、イスラーム到来以前の仏教、ヒンドゥー教の遺物とモスク建築の関連性も明らかである。 東アフリカのサンゴ石モスクと比較すると、サンゴ石の厚さは薄く、あたかも木材のようにサンゴ石を使用することがモルディプのモスクの特色である。また、サンゴ石の表面に施された彫刻は、非常に精緻である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
モルディブ諸島のサンゴ造モスクの概要を把握することができ、21の実例をその発展段階によって、タイプ化することができた。 ①一室無柱タイプ、フルフルメードゥー等5例、うち2棟調査済、②一室4本柱タイプ、ケーラ等4例、うち1棟調査済、③一室無柱周廊付きタイプ、イハヴァンドゥー等2例、うち2棟調査済、④1室4本柱ミフラーブ室付きタイプ、フェンフシ等3例、うち1棟調査済、⑤1室4本柱周廊付きタイプ、マーレイード等2例、うち2棟調査済、⑥一室4本柱周廊ミフラーブ室付きタイプ、イシュドゥー等2例、うち2棟調査済、⑦2室ミフラーブ室付きタイプ、ヴァドゥー、調査済、⑧2室ミフラーブ室周廊付きタイプ、マーレ大モスク、調査済(改修により不明一例) 建設年代は、早くとも16世紀、ほとんどは17世紀、18世紀のものであり、現存実例からタイプ間の歴史的発展を辿ることは難しい。しかしながら、礼拝室(柱の有無あり)に加え、ミフラーブ室、周廊がモスクの重要な要素で、壮麗化する場合には、礼拝室を2つ縦方向に並べて使用することがわかった。また、環礁という立地の中で、遠くはなれた地域にも同一の建築文化が普及していることも驚きである。 ミフラーブ室や周廊は、イスラームのモスク建築よりも、南アジアのヒンドゥー祠堂や仏教寺院に用いられることが多いもので、モルディブの基層にあったイスラーム以前の建築文化の影響が大きく働いていたことが推察できた。
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今後の研究の推進方策 |
今回の調査物件をもとに、2014年の7月に催されるヘレニズム~イスラーム考古学研究会で発表を行い、年度内に論文としてまとめる。また、来年度4月にシカゴで開かれる予定のムガール朝建築研究会Repositioning Mughal Architecture Within the Persianate Worldの論文に応募することを予定している。ムガール朝並行期のナーヤカ朝の石造モスクとモルディブのサンゴ石モスクを取り上げて、ビジャプールの外港であったダボルのモスク建築と比較することを目論んでいる。その中で、ペルシア性の覆った地域と、南アジアの地域色の強い地域の理由を考察したい。 今年度の調査予定として、モルディプのサンゴ石モスクのうち、ニランドゥー、ヴェイヴァ、クダフヴァドゥの調査を行うとともに、モルディブ諸島の北に位置するラッカディブ諸島のイスラーム建築とヒンドゥー建築の調査を行う予定である。 コモロ諸島に残る14世紀から16世紀のサンゴ石モスク調査、ニコバール・アンダマン諸島の調査は平成26年度に調査を行う予定である。当初調査を予定していたソコトラ島に関しては、現在イエメンの政情が安定しないため、上記の調査に変えることとする。
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次年度の研究費の使用計画 |
適当なものが見つからなかったので、次年度に繰り越した。 データ保存用のUSBを購入予定
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