研究課題/領域番号 |
25420680
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
深見 奈緒子 早稲田大学, イスラーム地域研究機構, 招聘研究員 (70424223)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | モルディブ / エジプト / イスラーム / 建築 / 歴史 / 珊瑚 / 島嶼部 / 環礁 |
研究実績の概要 |
2013年度に現地調査を行ったモルディブ諸島のモスクおよびイスラーム関連の歴史的建造物に関して、論文をまとめ、フィールドノートの図化を行った。論文に関しては、7月に金沢で開催されたヘレニズム~イスラーム考古学研究会で発表を行い、12月に論文としてまとめれた。本論文中で、モルディブが大陸と遠く離れた地域に環礁として立地することに根ざした特殊性、およびイスラーム文化の普遍性による東南アジア、南インド、西アジア等との共通性、さらにイスラーム以前のヒンドゥー文化、仏教文化との継続性について検討した。また、図化に関しては鹿児島県立短期大学宍戸克実助教に依頼して、キャドでの図化を行った。 モルディブ諸島の歴史的モスクは、基壇および壁面は珊瑚石で、上部に木材で架構し、古くはココナツ椰子の葉で屋根を葺いていた。ただし、現在では、鉄板等の金属板に取って代わってしまっている。モルディブ諸島は珊瑚の環礁で形成され、遠浅の海から珊瑚を切り出して建材としてもちいていたが、現在では珊瑚保護のために珊瑚建築の伝統は途絶えてしまった。ただし、同じく珊瑚石の建造物の伝統は、シナイ半島を含む紅海沿岸、および東アフリカのスワヒリ地方にもみられる。現状では、シナイ半島の調査は難しいので、シナイ半島のトゥールで建築調査を行ったサイバー大学の西本真一教授とともに、シナイ半島の珊瑚石建造物に関して、12月にカイロで情報収集を行った。 モルディブのモスク建築の特殊性について、2015年2月に開催された東京文化財研究所主催のコンソーシアム第26回東南アジア・南アジア分科会において、遺産の現状と歴史的価値について発表を行った。日本においては情報も少なかったため、参加した委員から数多くの質問を受けた。さらに、『季刊民族学』に掲載されたイスラーム建築に関してのエッセイにおいて、モルディブのモスクに関して言及した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初申請時には、モルディブ諸島ほか、イエメンのソコトラ島、南インドマラバール海岸沖のラッカディブ諸島、同コロマンデル海岸沖のニコバール・アンダマン諸島の踏査を計画していた。しなしながら、2013年度のモルディブ諸島の調査により、島嶼部の調査には多大なる時間と費用が必要であることが判明した。 とはいえ、モルディブ諸島を重点的に調査したことにより、モルディブ諸島の大きな特徴を発見することができた。いままで島の調査として経験したことのあるスワヒリ地方の島々、あるいはペルシア湾岸島々では、比較的島と大陸の距離が短く、大陸との関係性が強いことが特徴で、内陸政権によって港市の盛衰が左右された。しかし、モルディブ諸島では陸地とかなり距離があるので、大陸との文化的関係を持ちながらも、独自性が強く、さらには環礁内、あるいは一連の島の間の情報交換は、歴史的に推進されていることが次第に明らかになった。また、モルディブ諸島をマーレ島に限らず、できる限り広範に調査したことにより、今までに発表されたことがないモスクに関する図面を採取することができた。 他の島の調査を手がけることは、金銭的にも時間的にも難しいので、珊瑚石の建築に関する既往研究との比較を行った。それらは、すでに申請者が踏査を行い情報を持っているスワヒリ地方、あるいはペルシア湾岸の珊瑚石建造物である。また、西本真一教授の協力により、すでに中近東文化センターの発掘調査によって珊瑚石建築の詳細が発表されている紅海沿岸トゥールと比較することができた。 当初の目的は、大陸の文化と島嶼部の文化の比較に力点を置いていたが、大陸、大陸近傍の島々、沖合の島々では文化的にも大きく相違があることがわかってきた。本研究においてはモルディブ諸島に焦点をあてて、沖合の島々の建築文化の一例を網羅的に把握することをめざす。
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今後の研究の推進方策 |
2014年度に図化を行ったモスク図面を使用して、できれば英文論文を発表する。先にも述べたようにこれらの歴史的モスクについては、正確な図面が発表されていなかったり、あるいは図面自体が存在しなかったものもあり、研究の基盤を提供する点において、大きな意味をもつと考える。日本では、関心をもつ研究者も少ないので、英文での発表を心がける。 また、調査計画としては、2015年度には、もう一度モルディブ調査を行い、今まで踏査していない島々の踏査を続けることを目標としている。ただし、島と島の間の移動に公共交通はほとんどなく、また島を踏査する場合、当該の島民と交渉しないと行けないので、2015年度だけで踏査を終えることは困難と考える。継続的に助成を得て、モルディブ諸島の歴史的モスクの建築一覧の作成を目指したい。 一方、既往文献、資料、すでに踏査経験済みの島々の歴史的建築を、大陸との関係、大陸と島との距離、気候風土の相違、得られる建築材料、宗教の差異、以前の宗教の影響などから整理することによって、当初計画していた島嶼部の建築文化からインド洋建築史を考えることも並行して行いたい。 インド洋建築史という観点から、南インドのヒンドゥー建築およびイスラーム支配が卓越したデカン地方の建築についても、比較の点から資料を揃え、構法、材料、意匠について整理を行う。 2015年度のオリエント学会において、イスラームにおけるランプ文様の変容という点からモルディブのモスクに注目した発表を予定している。イスラームにおいては神の表象のひとつとして光があり、光を表すものとしてのランプがすでに8世紀初頭からミフラーブ(モスクにあるメッカの方角をあらわすニッチ)に描かれる。このモチーフが意味や形体を変えながらモルディブに至った経緯を発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2014年度の計画としては、2014年4月時点ではモルディブの現地調査を計画していたが、費用と時間に加えて、島の調査には島民とのコネクションなどが必要で、2014年度には調査を実施できなかった。代替として、カイロにおいてシナイ半島の珊瑚石建築を研究したことのある西本真一教授にカイロでの資料収集を依頼した。現地調査の図化および写真資料整理に使用するはずだった人件費・および謝金を使用しなかったために次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
2015年度には調査を予定していなかったが、今年度はモルディブ諸島の残りの島々を調査できるように準備を整え、実行に移したい。ただし、金銭と時間に加えて、島の人々の了解をとることが難しいそのためには、申請時に予定していた人件費・謝金を旅費に移行して調査を行わねばならない。
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