本研究の目的は、モルディブ諸島ほかインド洋海域島嶼部に残るイスラームに関連した建築遺構について、悉皆的に調査をおこない、従来明らかにされていなかったインド洋島嶼部の建築を通して、建築史を再考するこである。本年度は、当初スワヒリ調査を予定していたが、予定を変更し、研究代表者が居住するエジプトにおける紅海との関わりを中心に据えた。アレキサンドリアの歴史的水施設について博士論文をまとめ、現在カイロの城塞における水施設研究に取り組んでいるエジプト考古省のモハメド・ソリマン氏を日本へと招聘した。建築を通して、様々な人々、モノ、情報が動いていく道、経路に注目することであったため、国立民族学博物館共同研究会「物質文化から見るアフロ・ユーラシア沙漠社会の移動戦略に関する比較研究」と共同して、「エジプト海辺の資源利用と物質文化―地中海沿岸と紅海沿岸の比較から―」の研究会を開催した。 エジプトを含めたことにより、舟運を通してつながる文化という側面から、島嶼部の建築文化をより立体的に観察することが可能となった。地中海に注ぐナイル川は、運河を通して紅海へと通じ、東アジアや南アジアからの産物はインド洋を介し、この経路を通してもたらされた。 こうした視点に立脚すると、モルディブ、ソコトラ、ニコバール等大陸からかなりの距離をもつ海域島嶼部には、特有の材料と技法があり、大陸部との関係はありながらも文化の受容は節制され、特異発展など内的進化を遂げたことが、モルディブサンゴ造モスクの調査、および文献収集から明らかである。一方、紅海沿岸部、ペルシア湾の島嶼部など大陸に近い地域では、大陸からの直接的な影響が大きい。なお、スワヒリ地方は大陸と密接な関係を持っているが、文化供給が西アジアからなされ、ブラックアフリカの建築文化とは一線を置く様相が明らかになった。
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