研究課題/領域番号 |
25420683
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
末包 伸吾 神戸大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10273757)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | アメリカ / ロサンゼルス / 近代建築 / ノイトラ |
研究実績の概要 |
リチャード・ノイトラ(Richard Neutra,1892-1970)は,ロサンゼルスを拠点とし,独立住宅を中心に設計活動を行い,数々の著書を残した建築家として,アメリカ近代を代表する建築家とされる.一般に,近代建築,特に「インターナショナル・スタイル」は,地域性を廃した建築表現とされ,環境との呼応の欠落が指摘されることが多いが,ノイトラの作品をはじめとするロサンゼルス近代建築は,近代化と環境との呼応の拮抗を元に展開されてきたという仮説を筆者は有している.彼の代表作品「砂漠の家」などに示されるように,ノイトラは終始,厳しい環境条件と建築とを如何に呼応させるかに意を払い続けてきた.彼の主著「Survival Through Design」は,環境と呼応する建築に対する彼の思想を「survival」というタイトルのもとに集成したものである.このように環境への志向性を強く打ち出した彼の建築作品群の意義を,その質の高い建築作品に求めることはもちろん,作品群を作り出す根幹となる彼の思想を,地球環境保全が強く叫ばれる現代にあって,サスティナビリティの視点から再検討する価値は大いにあるものと考えられる. 本研究課題は,リチャード・ノイトラを対象に,彼の建築思想および建築に関する分析を,環境との呼応という観点から行うものである.特に思想については主著である「Survival Through Design」を対象に,そこで展開される彼の環境との呼応という思想の本質と共に,それがいかに空間化されているかを建築作品分析で検討することにより,環境との呼応サスティナビリティの観点から,彼の思想とその建築作品の特質を明らかにし,彼の建築思想と建築作品双方の現代的意義を示し,さらに地球環境保全という課題に対し建築意匠研究の点から資そうとするものである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
約400ページにおよぶ「Survival Through Design」については,すでに下訳とともに仮分析を終えており,本年度は訳文の再検討とともに,ノイトラの環境との呼応という思想の主軸となる諸概念を再検討し,その抽出を行う. 現在,仮説的にあげている最も重要な概念としては,「時代認識」,「生理学的空間」,「建築家の職能」という概念である.その3つの概念の下,「歴史の流用に対する批判」,「手段としての科学」「健康によるサバイバル」,「必要条件としての生理学的空間」,そして「空間の連続性」といった概念が,概念的なレベルから手法的なレベルにいたるまで展開されているという仮説が予備的検討によってもたらされている. 本年度はその内容について,具体的な概念規定について,検討を重ねた.
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今後の研究の推進方策 |
サイン集年度となる本年度は,おれまでの検討をさらに精緻化し,先に抽出した主概念の概念規定を行うとともに,そこでの検討をふまえ,ノイトラの建築論の主概念間の関係を,構造化し,後の建築思想と建築作品の分析の枠組みを導く. 主概念に基づく空間構成の分析手法の検討 ノイトラの建築思想から抽出された主概念をもとに,そこでも建築思想が建築作品に,どの様に展開されるのかを検討を行い,後の分析の視点とともに手法として提示する.仮説的には,内外空間の関係,特に内外の境界面の設定における環境との呼応,全体のヴォリューム構成における環境との呼応,さらに通風・遮熱性からみた素材や空間構成などがあげられる.これらは,次年度に予定するロサンゼルスでの現地調査およびカリフォルニア大学ロサンゼルス校貴重図書館ノイトラ・アーカイブにおける資料収集により補完・発展する予定である.以上の調査をふまえ,特にサスティナビリティの観点から,近代・現代建築におけるノイトラの建築思想と建築作品の位置づけを明らかにするとともに,その今後の可能性を示し,本研究のとりまとめと成果発表を行う.
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