我々はこれまで、強結合-線形マフィンティン軌道(TB-LMTO)法と呼ばれる電子状態の第一原理計算手法にコヒーレントポテンシャル近似(CPA)を組み合わせ、更にこれを久保公式に組み込むことで、遷移金属合金の電気伝導度(σxx、σxy)の第一原理計算を行ってきた。平成25年以降は、久保公式を用いたトルク相関関数の計算から不規則合金のギルバート緩和定数αの評価を行い、電子状態とαの関係を明らかにした。また平成26年度は、トルク相関法(K-G理論)によるαと、前述のScattering理論などに基づく表式が同一の結果を与えることを理論的かつ定量的に示した。 これらの研究は磁化の一斉回転を仮定した計算であるが、実際のデバイスで用いられる磁性多層膜やナノ磁性体では,磁化構造の空間依存性によって各磁化の回転位相がずれて不均一に運動していると予想される.そこで、平成27年度は、強磁性金属のスピンダイナミクスに対し不均一スピンダイナミクスまで考慮して磁化運動に関する統一的理解を得ることを目指した。計算の結果,時間微分を含むトルク項は従来のGilbert型緩和項と歪曲項に分類できることがわかった.歪曲項はスピン軌道相互作用と不均一スピンダイナミクスが両方考慮されている系でのみ発生し,本研究によって初めて見出されたトルク項である.緩和項と歪曲項の波数依存性は,ともにスピン励起(電子正孔対生成)に伴うネスティング効果を反映しており,各トルクの大きさは電子バンドと正孔バンドのFermi球が接するときに発散することが示された.
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