研究課題/領域番号 |
25420697
|
研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
竹屋 浩幸 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, その他 (80197342)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | フラーレン / 超伝導 / ナノウィスカー |
研究実績の概要 |
フラーレンナノウィスカー(FNW)を用いて軽くてしなやかな超伝導線材を開発するために、本年度は2つの点について研究した。長いFNWの超伝導化とC70の入ったFNWの超伝導化である。以前の1000倍(~1cm)長さのFNWを液相液相界面法(LLIP法)で合成し、短いFNW及び結晶C60について、ラマン散乱によりAg(2)モードに注目して調べた。その結果、基本的には3つはほぼ同じピーク位置、同じプロファイルをしている。これは、C60分子内のCの伸縮振動モードが同じであることを示している。XRD分析の結果では、長いFNWのバックグランドは結晶C60のそれより高いが、各ピークのシャープさはほぼ同じである。短いFNWに見られるピークの半値幅の広がりと乱れが長いFNWには見られなかった。よって、長いFNWは短いFNWに比べて欠陥が少なく、結晶性が良い。実験結果では、アルカリ金属(K、Rb、Cs)は24時間以内の加熱だけで超伝導体積分率は最大となるが、高磁場(~5T)の実験から臨界電流密度Jcは短いFNWより、2桁小さい。これは、アルカリ金属の分散の不均一性を示していると考えられ、熱力学的な安定相であるA3C60への転化のバリアが高い。また、後者の実験ではC70が入ってもTcはほぼ変化しなかった。ただし、アルカリ金属の分散均一性が悪くなり超伝導体積分率は低くなったがJcについても大きな低下は見られなかった。この結果は、実用段階でのコスト低減に役立つ。つまり、C60の合成ではC70もある程度同時に生成する。それらを分離する場合にはクロマトグラフィーが用いられるためC60単離のためにはコストが掛かるからである。また、C70はJcの結果からピニングサイトとして作用している可能性もある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前半の2年間の研究によって、アルカリ金属をドープしたフラーレンナノウィスカーの基本的な特性、特に超伝導線材応用のためのポテンシャルについて調べることができた。その結果、①応用のためにはなるべくTcが高いほうがよい。フラーレンのTcからして、液体水素(20.13K)を寒剤として使うか、冷凍機を使うことになる。Rb3C60あるいはCs2RbC60のFNWではTcとして約27Kであった。②ドーピング時間。本科研費のスタート前に、カリウムについてFNWと結晶ではドーピングがFNWの方が200倍速く、1日以内に完了するという優れた特性を示した。今回、RbやCsについて調べたが、FNWへのRbドープでは2~3時間、Cs2Rbでは24時間程かかった。前者はKに比べても早い。後者は2種類のアルカリ金属の分配の均一化に時間がかかるものと解釈できる。③本年度の成果概要に記したように生原料にはC70がある程度混入しているが、TcやJcの結果を見る限り、問題ないと考えられるという応用に向けたよい結果が得られた。以上、軽量線材としての応用のためのポテンシャルを持つことを確かめられたので、順調に進捗していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の進捗を左右する問題点が2点ある。①Rb、特にCs2Rbに関してはKに比べて超伝導体積分率が低い点が、超伝導電流を実際に流す時に、粒界コンタクトやJcに影響を与える。この点を解決するためにアンモニア溶媒を用いたアルカリ金属ドーピングを行っていく。②実際に電流を流したJcが求められていない。これが最も大きな問題点である。フラーレンに関する超伝導の論文は数多あるが、物性評価の99.99%は磁化測定によるものである。事実、本研究の2年間の評価、Jcの評価は磁化で行っている。電気抵抗を測定した例はほぼゼロ(1つか2つか)であり、Jcを実際に電流を流して評価してはいない。その大きな理由は、アルカリ金属が空気中ではすぐに反応し、超伝導が壊れてしまうからである。この点についてはFNWのコーティング等を考えていたが、それではすぐに解決することは難しいようで、他の方法をとることにした。 結局、来年度以降は、アンモニア溶媒を用いて、フラーレンを超伝導化し、電流を実際に流してJcを測るためにコーティング以外の新しい方法を用いることとした。
|
次年度使用額が生じた理由 |
後半の研究では、アンモニアを利用した実験に集中したいと考えている。そのために様々な合金系シース材を探していたが、いろんな業者とやり取りしていたがなかなか適当なシースが見つからなかった。先月、ようやく見つかり、次年度に発注する予定である。また、より安全で確実な実験環境のためにアンモニアコンテナの仕様変更を再検討をしており、そのための基本データを3月中にとった。次年度早々に変更のための部品を発注予定である。
|
次年度使用額の使用計画 |
ブチル製特殊O-ring(3万円)、コンテナ部品(クイックカップリング、バルブ等 15万円)、シースパイプ(Mg-Al合金、Mn-Al合金 12万円)
|