研究課題/領域番号 |
25420698
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
田村 亮 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, 研究員 (20636998)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 磁気冷凍 / 磁気エントロピー / 相転移 / 反強磁性体 |
研究概要 |
本年度は,磁気冷凍性能を最大限引き出す方法の探索を行った.強磁性体および反強磁性体の磁気冷凍特性の微視的性質を大規模数値計算によって調査した.モンテカルロシミュレーションにより,強磁性体および反強磁性体の磁気エントロピーの温度依存性を精度よく得る事に成功した.その結果,強磁性体では,磁場を減少させる事によって,必ず磁気エントロピーが増加する現象が確認された.つまり,強磁性体において巨大な磁気エントロピー変化を得るためには,磁場を有限磁場から零磁場まで変化させればよい.この磁場印加手順は,従来より実験において用いられてきた手順である.一方で,反強磁性体の場合には,ネール温度以下で,磁場を減少させる事によって磁気エントロピーが減少する場合が観測された.つまり,反強磁性体の場合,磁気エントロピーが最大となるのは零磁場下ではなく,有限磁場において最大となる.したがって,零磁場まで変化させるという従来型の磁場印加手順を用いてしまうと,得られる磁気エントロピー変化は小さくなってしまう.そのため,反強磁性体で巨大なエントロピー変化を得るためには,磁場を零磁場まで変化させずに,ある有限の磁場で止める必要があることを発見した.この発見手順は,反強磁性体に特化した物ではなく,強磁性体を含め一般の磁性体にも適用可能である.したがって,この発見により,すべての磁性体の最大の磁気冷凍性能を正確に把握する事が可能となった. また,磁気冷凍では磁性材料が示す相転移の様相が,高い磁気冷凍性能を得る上で重要となる.そのため,磁性体における相転移の様相の制御方法に関する基礎研究も行った.大規模数値計算による解析から,フラストレーションのある磁性体では,格子の歪みや,次元性によって,相転移の次数や潜熱の大きさを制御できる事を示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題の目的は,高性能な磁気冷凍材料の設計指針を構築する事である.本年度発見した磁場印加手順を用いる事により,すべての磁性体の磁気冷凍性能を最大限引き出す事が可能となった.これは,高性能な磁気冷凍材料の探索において必要不可欠な成果である.また,相転移の次数を制御できる方法を明らかにした事は,今後磁気冷凍性能と相転移の関係について調査する上で,重要な知見である.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で発見した磁場印加手順を,様々な種類の磁性体に適用し,それぞれの磁性体の真の磁気冷凍性能を評価する.ここでは,強磁性状態やネール状態を示す磁性体だけでなく,フラストレート磁性体やランダムネスのある磁性体といったより広範な物質群についても調査する.そして,各磁性体の示す磁気冷凍特性を比較する事によって,真に磁気冷凍に適した磁性体を理論研究から探索する.また,各磁性体に適した磁気冷凍サイクルに関しても議論を行う.さらに,実験グループと共同で,磁気冷凍に適した磁性材料の設計指針の構築を目指した研究を推進する.
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