研究課題/領域番号 |
25420699
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
太田 道広 独立行政法人産業技術総合研究所, エネルギー技術研究部門, 主任研究員 (50443172)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 熱電材料 / 未利用熱エネルギーの活用 / パナスコピック形態制御 / 積層構造 / ナノ構造制御 / 配向制御 / 熱電発電モジュール / 金属物性 |
研究実績の概要 |
本研究では、鉛カルコゲナイド(PbX (X: S, Se, Te))系バルク体において、原子配置(結晶)、ナノ、マイクロ、ミリ構造の各階層の形態を制御(パナスコピック形態制御)することで、熱電特性の大幅改善と熱電発電モジュールの開発を目指している。昨年度は、PbX層とビスマス・カルコゲナイド(Bi2X3)層を基本構造とした自然積層構造を持つ層状カルコゲナイドにおいて、結晶構造の制御を実施して、熱電材料に相応しい低い熱伝導率を実現した。三年計画の二年目にあたる本年度は、PbSe層とBi2Se3層が1:1の割合で、結晶軸c方向に積層した結晶構造を有するカニツァライトPb5Bi6Se14において、マイクロ構造の制御を実施した。 合成したPb5Bi6Se14の粉末を、真空中で一軸方向から加圧しながら焼結することでPb5Bi6Se14の焼結体を作製した。X線回折法と走査型電子顕微鏡法により、加圧方向に対して平行方向に結晶軸cが配向していることを確認した。加圧焼結法を用いることで、マイクロオーダーの配向制御に成功した。この配向焼結体において、結晶軸cに垂直な面内方向に高い電荷キャリアの移動度を達成した。この面内方向の移動度は、結晶軸cに平行な面外方向と比較して3.5倍程度も高い。これは、面外方向では、PbX層とBi2X3層の界面にてキャリア散乱が引き起こされることに起因している。高い移動度の結果として、面内方向に優れた電気特性を実現した。 昨年度に結晶構造の制御により達成した低い熱伝導率と、本年度にマイクロ構造の制御により達成した優れた電気特性により、Pb5Bi6Se14焼結体の面内方向に優れた熱電特性を実現した。 最後に、ナノ・ミリ構造制御として、マグネシウム・テルライド(MgTe)のナノ構造を埋め込んだPbTeバルク体熱電材料を用いて、ミリオーダーの熱電発電モジュールを試作して、高効率動作を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでの研究で、原子配置(結晶)、ナノ、マイクロ、ミリ構造の各階層の形態制御を、二つの鉛カルコゲナイド系材料、カニツァライトPb5Bi6Se14と鉛テルライドPbTeで実施してきた。Pb5Bi6Se14では、結晶構造とマイクロ構造の制御を実施して、焼結体の面内方向に優れた熱電特性を実現した。PbTeでは、ナノ構造とミリ構造の制御を実施して、熱電発電モジュールの高効率動作を確認した。Pb5Bi6Se14とPbTeで、共に満足いく成果を得ている。三年計画の二年目で、計画していたすべての研究、すなわち、各階層の形態制御のすべてに着手して成果を得ている。後述する通り、研究発表も精力的に実施することができ、自己評価として「当初の計画以上に進展している。」とした。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究では、各階層の形態制御を、二つの鉛カルコゲナイド系材料、カニツァライトPb5Bi6Se14と鉛テルライドPbTeで実施してきた。最終年度となる平成27年度の研究では、ここで得た知見を利用して、一つの材料系において、すべての形態制御を実施する。二年間の研究で、異なる材料系で一つ一つの形態制御を独立に実施するだけでも、熱電特性を向上できるという成果を得ている。すなわち、すべての形態制御を一つの材料で統合的に実施することができれば、熱電性能指数を大きく改善できると期待される。もちろん、各形態制御は互いに相関を持っているので、異なる材料系での独立制御に比べて難易度は向上する。昨年度(平成25年度)と本年度(平成26年度)の研究で得た知見と手法を利用することで、この壁を乗り越えて、すべての形態制御を一つの材料で実現する。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験の一部を、補助員の雇用ではなく、外注分析に依頼して実施した。実験の量から考えて、外注分析に依頼した方が効率的であった。そのため、想定していた人件費・謝金を使用することがなく、結果として次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
一部の実験において、その手法が確立しつつあり、ルーチン化できる補助的な作業も多くなってきた。そこで、研究を加速させるために、平成27年度は、このルーチン作業を現場で実験補助者を雇用して実施することを計画している。補助的な作業が多くなり、現場で実験補助者を雇用した方が効率的で研究を加速できる。次年度使用額は、そのための人件費・謝金として使用する予定である。
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