研究実績の概要 |
本研究では、鉛カルコゲナイド(PbX (X: S, Se, Te))系バルク体において、原子配置(結晶)、ナノ、マイクロ、ミリ構造の各階層の形態を制御(パナスコピック形態制御)することで、熱電特性の大幅改善と熱電発電モジュールの開発を目指している。最終年度の本年度は、PbTeにおいてナノ構造とミリ構造の制御を実施した。さらに、毒性元素Pbを使用しない環境に調和した新規カルコゲナイド系熱電材料の開発も実施した。 まず、n型のPbTeの開発を実施した。PbTeに、n型のドーパントとしてヨウ化鉛PbI2を添加した。作製したPbTe-0.2%PbI2の試料を、透過型電子顕微鏡を用いて観察したところ、Pbの欠陥が集合した5 nm程度のナノ構造の形成が明らかとなった。PbTe-PbI2は熱電材料として相応しい低い格子熱伝導率を示すが、このナノ構造がフォノンを効果的に散乱していることがその要因の一つであると考えられる。熱電性能指数ZTは、750 Kで非常に高い値1.4に達した。 続いて、n型には本研究で開発したPbTe-0.2% PbI2を、p型には従来材料のPbTe-2% Mg-4% Naを熱電材料として用いて、ミリレベルの熱電変換モジュールを作製した。本モジュールの特徴は、PbTe系熱電素子と銅電極の接合に、高温側には銀ペーストを、低温側では半田を用いたことである。これらの部材を用いることで、高温で安定的に発電することが期待される。実際に、低温283 K、高温873 Kの条件で、発電することを実証した。 最後に、銅Cuと硫黄Sからなる低毒性熱電材料の開発を実施した。化学組成Cu26Ta2Sn6S32において、670 KでZT = 0.8を達成した。上記PbTe-0.2%PbI2のZT = 1.2には及ばないものの、Pbを使用しないで、このZT = 0.8を達成したことは評価に値する。
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