材料の厚さがナノメートルオーダになると表面に依存する原子数と内部に依存する原子数の比が大きく異なる。このために原子間結合に依存するヤング率は、材料の厚さ依存性を持つことが考えられる。このような効果に対しての理論的な考察は行われてはいるものの、実験的に調べた報告はない。本研究では材料のヤング率が材料厚さによりどのように変化するかを実験的に検討した。まず、数10nm~100nm程度の厚さを持つチューブ状のAl2O3をALD法を利用して作製する技術を開発した。この手法により最小厚さ~10nmの厚さで直径が5μm程度で長さが~数cmオーダーのAl2O3チューブ状Al2O3の再現性のある作製に成功した。また、Al2O3の厚さは10nm~数100nmの間の任意の厚さのものを制御して製造することが可能であった。このようにして作製したチューブを用いてヤング率を測定した。ヤング率の測定に片持ち梁法を利用した。すなわち、Al2O3チューブの一端を剛体に固定し、もう一端のAl2O3チューブのたわみを精密に測定することによりチューブ状はりの弾性解析を用いてヤング率を導出した。その結果、Al2O3のヤング率は厚さ依存性を持ち、厚さが薄くなるにつれてヤング率が変化する傾向が認められた。ただし、ヤング率を厚さの関係を正密に求め理論やシミュレーションの結果と比較・検討するためには、更なる実験結果の蓄積が必要であると判断される。本研究に最大の成果は厚さを10nmレベルまで制御した直径5μmのチューブを作成する方法と簡単にヤング率を測定する方法を提案したことにあると考えられる。
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