研究課題/領域番号 |
25420705
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中村 吉伸 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30198254)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | Rydberg状態 / 希ガス元素 / インターカレーション / 電子励起 / 蓄電デバイス / プラズマ処理 / アンチペロブスカイト / Dirac電子 |
研究概要 |
“電子励起蓄電池”の実現を目指し、その活物質となりうる希ガス内包物質を、ケージ、トンネル、2次元層間を有するホスト物質への希ガスプラズマのインターカレーションにより合成し、その光励起によるゲスト希ガスの励起状態(Rydberg状態)を実現することを目標としている。本年度はまずホスト物質に希ガス原子を高周波の印加によりプラズマ化し、希ガス原子をイオン化・インターカレートする装置の設計・製作を行なった。 希ガスプラズマ反応装置の設計にあたり、真空チャンバー内の試料ステージ上のホスト物質に差動排気式高周波イオンガン(現有)でプラズマ流を照射する方式、および、石英製真空チャンバー内で試料ステージを取り巻くコイルからでプラズマを発生させる方式の2通りの試作を行ったが、後者の方はまだ完成をみていない。 ホスト化合物の第一候補として、アルカリ土類金属(Ca、Srなど)のような強力な電子供与能を有するCa3PbO,Ca3PbN,Sr3SnOなどのAnti-perovskite化合物選定し、大量の格子欠陥(格子内空隙)を導入したのちOサイトに希ガスイオンをインターカレートできないかを検討する。現在はその合成条件を検討しているが、物性測定に適した高純度の試料は未だ得られていない。アルカリ土類Anti-perovskite化合族にあってはCaイオンがAサイトのPb(またはSn)を-4価まで強還元しており、Oサイトへ置換された希ガスイオンは陰イオンに還元される、最外殻電子が高エネルギー状態をとる可能性は十分にある。 Anti-perovskite化合物における励起状態の電子状態評価は光学特性によることを予定しており、現在、UV-VIS-IR分光光度計を温度可変で反射スペクトルがとれるように改良を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
希ガスプラズマ処理装置の設計と製作に予想以上の困難があり計画の遅れの元凶になっている。特に試料ステージ上に直接プラズマを発生させる方式による合成装置は高周波発生部位の設計に不備・不良が生じていたが、プラズマ処理装置の試作を数多く手がけてきた三重大学、與倉三好研究員の協力により、ようやく具体化の兆しが見えてきた。26年度の上期までには、製作を完了しAntiperovskite化合物系をはじめとするホスト化合物に希ガスイオンを挿入するプロセスを確立したいと考えている。 また、物質探索に関しても、アルカリ土類のような電気的に陽性な元素で囲まれた空間に希ガスイオンを閉じ込めることができれば、最初に想定した高エネルギー状態の分子(固体)が実現できる可能性があることが予測されるに至っている、しかしながら電子供与性元素を含む化合物はおおかた空気中の酸素や水蒸気の存在に敏感で、これらの雰囲気ガスとの反応で、容易に物質が分解してしまう取扱いの難しさが生じている。物質の設計指針の正当性を論じるためには、強力な電子供与イオンで囲まれた空間の設計、物性評価が必要不可欠なプロセスであり、多少時間と手間をかけてもこの辺の評価はしっかりと行いたい。PbCa3OなどのAnti-perovskite、近年、その特異な電子構造と結晶構造の対称性から伝導電子がDirac電子であるという理論的予想もあり、注目され始めた物質である。希ガスインターカレーションに加えて基礎電子物性に不明な点が多い物質系であることから、その基礎物性の評価も念入りに行う必要があると考えられるため、今後も計画の遅れが少し生じてくるかもしれない。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度では希ガスのホスト化合物の材料探索を引き続き行う。一方で材料探索において計算化学的手法も併用し、ホスト化合物ケージ内の電子状態と希ガスインターカレーション状態との相関関係(例えばケージ内壁に強力な電子供与状態が必要かあるいは全くの中性状態が適しているか、ケージ内の電荷分布はどうかなど)を把握し、光学特性などの実験結果との整合性を見極める。計算の手法としては結果が実空間における電子分布の視覚化には優れるDV-Xα法などによる。 これらの結果は希ガス内包物質系の化学としてできれば体系化まで行いたい。可能な限り多くの物質で希ガスのインターカレート実験を行い、ホスト物質をケージ構造(0次元)、トンネル構造(1次元)、層状構造(2次元)に分類し、それぞれのケースで希ガスインターカレートの状態(そもそもインターカレーションが可能か、インターカレートの物質量、Rydberg状態の実現の可能性は?可能な場合その寿命は?)などのデータの蓄積を行なう。その際、例え蓄エネルギー材料として有効な長寿命Rydberg状態が得られない場合にあっても物質キャラクタリゼーション結果は、希ガス内包物質系として体系化には欠かせないデータを供与し、ホストーゲストの物質化学の分野への学術的な貢献ができると考えている。 計画の最終年度までには電気化学的手法による、系の励起状態におけるポテンシャル(フェルミエネルギー)の評価、励起寿命の評価。畜エネルギー物質としての材料設計に着手したいと考えている。希ガス内包物質系が見出されれば、それを透明電極あるはメッシュ電極上に配し、希ガス溶解度の高い溶媒系などを用いての3極セルを構成した上で電気化学特性(平衡電位の時間変化、サイクリックボルタモグラムなど)の評価を行なう予定でいる。
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次年度の研究費の使用計画 |
希ガスプラズマ処理装置は、研究担当者にあっては使用の経験がなく、その設計と製作に予想以上の困難があった。本研究の核となるプラズマ処理装置の設計・作製計画の遅れが、全体の研究計画の遅れの元凶になっている。特に試料ステージ上に直接プラズマを発生させる方式による合成装置は高周波発生部位の設計に手間取り、装置は25年度末の段階では未完成の状態であった。装置の設計、実験にあたっては、同装置の設計・製作に豊富な経験を持つ與倉三好三重大学研究員からの有益な情報提供をうけたのちに装置の再設計を行ったため、装置の完成が25年度中に終了しなかた。よって研究費にあって高い比重を占める高周波電源の購入に至らず、次年度に大きな金額を繰り越す結果となった。 プラズマ処理装置の試作を数多く手がけてきた三重大学、與倉三好研究員の協力により、ようやく具体化の兆しが見えてきたため、26年度の上期までには、計画調書で申請・購入予定の高周波発生装置を購入し、装置の試作を完了する。これによりAntiperovskite化合物系をはじめとするホスト化合物に希ガスイオンを挿入するプロセスを確立したいと考えている。これにより26年度は装置試作費として約90万円、試薬購入費、ガスボンベなど研究遂行のための消耗品購入費用約30万円、学会参加、研究発表・情報収集に約10万円を使用する計画である。
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