研究課題/領域番号 |
25420705
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中村 吉伸 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30198254)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | Rydberg状態 / アンチペロブスカイト / 水素ドープ / 励起状態 / 超伝導 |
研究実績の概要 |
水素原子あるいは希ガス元素における励起状態(Rydberg状態)電子はその他の元素と比較して高エネルギー状態にあり、励起状態-基底状態間のエネルギー差が著しく大きい。また水素原子においても、基底状態が著しく低エネルギーの1s軌道のためn=1~2間のエネルギー差は10.2eVと大きい。申請者は希ガスもしくは水素原子をゲスト物質としたホストゲスト系を設計し、この巨大エネルギー差を起電力とする革新的物理電池“電子励起畜電池”の実現を目指している。当該年度においては新たにホスト物質としてに水素に着目し、Rydberg状態電子とそれ取り巻くケージの電子系との相互作用をホスト物質の結晶学的特徴に従って考察を行い、Rydberg状態を長寿命化させるケージの形状および電子状態の描像を実験および量子化学計算の両側面からの検討を行った。水素原子のゲストサイトとしは、強力な電子供与性元素で囲まれたゲージ空間が適すると考えており量子化学計算によりスクリーニングを行なった結果、anti-perovskiteにおけるアニオンサイト、もしくは格子間サイトが条件に適するとの結論を得た。金属導電性Antiperovskite (Mn3CuN,Ca3PbN,Ca3BiN,Ca3PbO.など候補物質の合成を行い、さらに窒素(酸素)サイトの欠陥制御を行った上でその水素吸蔵性を精査したところMn3CuNがごく限られた条件下にて水素を大量に吸収し、金属-絶縁体転移が引き起こされることが明らかになった。このAntiperovskite水素吸蔵体(Mn3CuN:Hx)は、ゲストH原子の励起によるRydberg結晶の候補物質になりうると同時に、水素量を制御することで転移温度9.5Kの超伝導体になることが見いだされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度にあってはマンガンとアルカリ土類金属等の陽性元素で構成される金属チッ化物(A3MnN)が、ごく限られた温度条件下で表面層が水素を大量に吸収することを見出し、この系の結晶化学的考察により挿入水素イオンがRydberg状態をとる可能性が示唆された。このことは、本研究の目標達成のブレークスルーになりうることと同時に、水素吸蔵技術への貢献も期待できることから急きょ計画の修正を行い、現有の装置・機器類を再改造し、結晶内へのより効率的な水素吸蔵実現のため、水素プラズマ処理による新たなRydberg結晶合成装置の導入を開始した。 水素のホスト化合物の候補として、強力な電子供与能を有する元素のケージ構造を探索し、現在までにMn3CuNが水素吸蔵能を有することを見出し、その再現性も確認した。 水素の侵入サイトの同定は次年度の課題となる。現時点で可能性の高い水素侵入サイトは単位格子の稜線中央の格子間サイトおよびN欠陥サイトで、近接の電子供与性イオンの影響で侵入水素は陰イオンに還元される、最外殻電子が高エネルギー状態をとる可能性は十分にある。より詳細な物性評価に備えてフラックス法による単結晶の合成に着手しており、合成容器の設計・製作、フラックスの選定とその溶融条件の決定はほぼ完了している。単結晶合成に成功次第、窒素欠損濃度制御法を確立し、光学特性による電子状態評価を予定している。また、Mn3CuNへの水素導入量を制御することで、(すなわち、水素侵入による絶縁化の一歩手前の水素量を導入することで)、Mn3CuN:HxはTc=9.5Kの超伝導体となることが見いだされた。これは、侵入水素イオンが基底状態である状態での現象ではあるが、Mnを含む物質の常圧での超伝導は極めて稀な現象であり、磁性と超電導の関係を中心に、物性物理学の分野に新たな展開をもたらす可能性は十分で、その波及効果は大きい。
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今後の研究の推進方策 |
Caの八面体ケージを実現するために着目したAntiperovskite酸化物・窒化物であるが、現在に至るまでのそ合成例は少なく、単結晶の合成も困難であったことから同系統の物質の電気特性の評価はほとんど行われていない。しかしながらPbCa3O、BiCa3NなどのAnti-perovskite物質群はその特異な電子構造と結晶構造の対称性から伝導電子がDirac電子であるという理論的予想もあり、物性物理学の分野で注目され始めた物質でもある。その物性評価は強力な電子供与イオンで囲まれた空間の設計、物性評価と併せて必要不可欠なプロセスと考えており、多少時間と手間をかけてもこの辺の評価はしっかりと行いたい。Ca,Srなど強力な電子供与性イオンを含有るAntiperovskite窒化物にあってはAサイトのBi(またはPb)を-3価まで強還元しており、Antiperovskite酸化物同様の電子構造が期待できる。なおかつ酸化物に比較して窒化物は窒素サイトの欠損濃度制御が容易のため、希ガス導入サイトとしてはより適しているといえ、昨年度の成果でその合成に成功した意義は大きい。 Antiperovskite化合物へのゲスト水素イオン、あるいは希ガス元素のRydberg状態はUV吸収・発光スペクトルにより評価し、またその導電率、熱起電力、特に超伝導物性などの基礎物性の評価も併せて行う。当初のからの計画どおり開発に成功したAntiperovskite窒化物・酸化物の電子状態とインターカレート希ガスの状態との相関関係を基礎物性の実験データ解析および量子化学計算などの手法を駆使して明らかにする。長寿命Rydberg状態が期待される系においては電気化学セルを構成し、時間分解平衡電位測定により励起寿命の評価を行う。系の最適化が叶えば電池系を構成し起電取り出すという研究の最終段階に入る。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画の希ガス吸蔵型Rydberg結晶が実現せず研究に遅れが生じていた。ところが、最終年度に陽性元素を含む金属チッ化物が水素を大量吸蔵することを発見し、計画とは異なる形態で当初の目的の達成(水素吸蔵型Rydberg結晶創成)の可能性がでてきた。そこで、急きょ計画の修正し、現有の装置類の再改造により水素吸収Rydberg結晶合成装置を導入することにした。
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次年度使用額の使用計画 |
研究計画の一部変更により、ターゲット物質の大幅変更があった。新たな化合物合成法の発案に1ヶ月、装置の開発に2ヶ月、新規水素化物の合成には3ヶ月以上を要する見込みであり、27年度内の完了が困難になったため、研究の延長を申請した。あと1年の研究期間の延長により、大きな研究の進展が期待されると確信している。
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