研究実績の概要 |
水素原子あるいは希ガス元素における励起状態(Rydberg)電子は、他の元素と比較して励起状態-基底状態間のエネルギー差が大きく、とくに水素原子にあっては基底状態が著しく低エネルギーの1s1のため、n=1,2間のエネルギー差は10.2eVと特に大きな値をとる。 本研究者は希ガスもしくは水素原子をゲスト物質としたホストゲスト系を設計し、この巨大エネルギー差を起電力とする革新的物理電池“電子励起蓄電池”の実現を目指している、当該年度においても引き続きホスト物質として、電子構造が単純で理論的な考察が可能な水素に着目し、Rydberg状態電子(電子励起状態)とそれをとり囲む遷移金属ゲージの電子系との相互作用をホスト物質の結晶学的・構造化学的特徴に従って電子論的な考察を行い、Rydberg状態の実現とその長寿命化の可能性が示唆されるゲージ構造の形状および電子状態の描像に関する検討を続けている。昨年度より水素原子をAntiperovskite型Mn窒化物をはじめとする、ぺロブスカイト型結晶の格子間に効率的に導入する手法の開発を続きてきたが、①熱拡散による従来の手法に加え、②DC放電による水素プラズマ処理による水素導入の手法を試み、そのための装置改良も併せて行った。金属導電性のAntiperovskite型窒化物Mn3CuN、Mn3GeNおよびそれらの混晶物質を作製し、水素プラズマ処理を行った結果、表面層が2~10 μmの領域で格子定数が増大し、金属状態からワイドギャップの半導体へ転移することがわかった。バンドギャップはプラズマ条件および組成比に依存してEg=3.8~4.2 eVで制御が可能であった。導入した水素はH- (1s2)状態であることが示唆されたが、光物性の評価からそのRydberg状態の確認には至らなかった。 光電池への応用を視野に、水素プラズマに対する感受性が示唆されたMn含有化合物(例えば(La,Ba)MnO3)によるヘテロ接合を作製し、その電気特性、磁気特性の評価をも平行して行なった。
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