研究課題/領域番号 |
25420715
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
藤原 忍 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (60276417)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 蛍光体 / ナノ材料 / 光物性 / 表面科学 / イメージング / センシング |
研究実績の概要 |
本研究は、化学的環境との相互作用による発光色の変化や発光・消光の制御が可能な無機蛍光体材料開発の基盤を構築することを目的としている。第二年度(平成26年度)は、蛍光体材料に新規な形状・形態を付与すること、およびそこから生じる新たな表面微細構造と界面における化学反応との関係に注目した。具体的には、酸化還元反応に応答して発光明滅スイッチングを示すSiO2@CePO4:Tb3+コアシェル粒子およびCeO2:Sm3+中空粒子の創製、有機分子の挿入により分子応答性スイッチングを示す層状イットリウム水酸化物やMg-Al-Eu系層状複水酸化物薄膜材料の創製に焦点を当てて研究を進めた。また、新物質の開拓を目指して初年度に引き続き、表面構造を制御したCaNb2O6、CaWO4およびCaMoO4のプロセス設計と発光特性の調査も行った。 SiO2@CePO4:Tb3+では、高分子錯体を利用することでコアシェル粒子が作製でき、その粒子が酸化還元応答性を示すことがわかった。CeO2:Sm3+では、鋳型を用いてサブミクロンサイズの中空粒子が得られ、同サイズの中実粒子よりも良好な酸化還元応答性を示すことを明らかにした。ゾル-ゲル法により作製したMg-Al-Eu系薄膜では、一度高温焼成により酸化物とした薄膜を室温で水溶液に浸漬する際、水溶液中に特定の有機分子が存在するときにのみ、有機分子を取り込んだ層状複水酸化物に変換された。それと同時に有機分子との相互作用によりEu3+の発光が増強されることがわかり、簡便な有機分子センシングデバイスとして利用できる可能性が示された。新物質の開拓では、Nb、W、Moを含む複合酸化物が、金属イオンの価数変化と格子欠陥の有無による新たな化学的応答性を示すことがわかり、今後、詳細にその構造を検討していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度(平成25年度)から引き続き、第二年度(平成26年度)も酸化還元応答性および分子応答性の発光スイッチング機能を有する無機蛍光体材料について、材料デザイン、合成、評価、試験の実験を行った。材料デザインの観点からは、SiO2@CePO4:Tb3+コアシェル粒子、CeO2:Sm3+中空粒子、Mg-Al-Eu系層状複水酸化物薄膜という3種類の新規な材料構造を新たに設定し、それぞれの発光特性およびスイッチング機能付与の可能性について検討することができた。新物質については、これまで研究の中心としてきたセリウム化合物以外での物質探索において、CaWO4の欠陥制御によりWO42-による自家発光およびドープされたEu3+の発光のいずれも化学的応答性を示すことを見いだした。このように欠陥活性をもつ蛍光体の機能性を制御するというアイデアとその実現は本年度の最大の成果であり、次年度以降にその大きな展開が見込まれる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25・26年度に得られた結果を基にして、同様の研究体制・手順を維持しながら、無機蛍光体材料の新たな構造づくりをさらに進め、表面微細構造と蛍光スイッチング特性との関係をより深く追究するとともに、イメージング材料として実用的レベルでの取り扱いやすさを検討する。また、連携研究者とともに、電気化学的な応答性を目指した測定系の確立と試料作製を行う。さらにこれまでの研究に引き続いて、用途に即した励起・発光特性を有する新規な無機蛍光物質の探索と評価を行う。具体的には、極めて欠陥活性が高いと予想されるバナジン酸化合物やタングステン酸化合物の構造をコントロールして、より高速かつ高感度な蛍光明滅スイッチングを起こすことのできる蛍光体を開発する。最後に、新たな展開として、酸化亜鉛薄膜に機能性有機分子をドープした新規な無機-有機ハイブリッド膜を作製し、酸化亜鉛の外場応答性を有機分子の物性変化につなげられるようなイメージング材料を創製する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額は少額(368円)であり、ほぼ計画通りに予算を執行している。
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次年度使用額の使用計画 |
消耗品費として使用する。
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