最終年度は、これまでの研究で得られた新形態の蛍光体材料の合成プロセスの再検討と応答性の向上について集中的に研究を進めた。まず、ナノ結晶CePO4:Tb3+膜をSILAR法で常温合成する手法を開発し、良好な応答性を得た。SiO2@CePO4:Tb3+コアシェル粒子では、トリポリリン酸を用いたゾル-ゲル過程を新たに導入することで、SiO2コアに再現良くCePO4:Tb3+シェルを作製することが可能となり、酸化剤・還元剤の濃度に定量的に応答させることができた。CeO2:Sm3+中空粒子では、鋳型となるカーボン粒子の合成法を見直した結果、サイズの揃った中空粒子が得られるようになり、より高い酸化還元応答性を示し、なおかつ回収が容易な蛍光イメージング粒子を実現することができた。 新物質の開拓では、形態を制御したBa2V2O7およびYVO4:Eu3+の液相合成ならびにCaMoO4:Eu3+薄膜の発光増強とナノ構造化に取り組んだ。さらに、タングステン酸系で新たにY2WO6:Eu3+に注目し、表面微細構造の制御により酸化還元に応答して蛍光スイッチング現象を示すことを明らかにした。 研究期間全体を通しては、酸化還元に応答して実際に蛍光特性が変化する材料(CePO4:Tb3+、SiO2@CePO4:Tb3+、CeO2:Sm3+、CaWO4:Eu3+、Y2WO6:Eu3+)、その可能性が示唆される材料(CeVO4:Eu3+、YVO4:Eu3+、Ba2V2O7、CaNb2O6)、有機分子の挿入により分子応答性蛍光スイッチングを示す材料(層状イットリウム水酸化物、Mg-Al-Eu系層状複水酸化物)について、材料設計、材料合成、特性評価を系統立てて進めた。その結果、従来にない無機蛍光体を用いたイメージングおよびセンシング機能を生み出すことに成功するとともに、その学術的基盤を構築することができた。
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