研究課題/領域番号 |
25420720
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
小笠原 一禎 関西学院大学, 理工学部, 教授 (10283631)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 蛍光体 / 遷移金属 / 多重項 / 吸収スペクトル / 第一原理計算 / 構造最適化 / 酸化物 / フッ化物 |
研究実績の概要 |
多次元多重項エネルギーダイヤグラムの効率的な構築に向けて、膨大な計算・データ処理を自動化するプログラムの開発を行った。このプログラムでは、D4h対称およびD3d対称の場合について、結合距離および歪の度合いを示すパラメーターの値を徐々に変化させた一連のクラスターに対応した入力ファイルを生成し、順次多重項エネルギー準位の自動計算を行う。更に、一連の計算結果から、エネルギー準位のデータを抜き出して結合することにより、多次元ダイヤグラムを描画するためのデータを作成することができる。このプログラムを用いることで、これまでに作成したD4h対称およびD3d対称について、より精密なダイヤグラムを作成することに成功した。 格子緩和効果を考慮した第一原理計算に関しては、α-Al2O3中およびMgO中のd3イオン(V2+, Cr3+, Mn4+)について、種々の計算条件でCASTEPによる構造最適化を行ったところ、スピン分極を考慮した計算による最適化構造が最もよく実験結果を再現することがわかった。また、α-Al2O3中Cr3+では、R線発光のエネルギーが通常の電子雲膨張効果と矛盾することが知られていたため、その要因を明らかにするために、クーロン積分および相関補正因子の圧力依存性を解析したところ、圧力が高くなるにつれて、軌道の収縮により分子軌道のクーロン積分は増加するが、電子相関の高価が急激に増大するために、有効クーロン積分の値が減少することがわかった。これは、通常の電子雲膨張効果と矛盾する「逆電子雲膨張効果」とも言うべき現象であり、R線発光エネルギーの圧力依存性が電子相関効果によって支配されていることを始めて明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多次元多重項エネルギーダイヤグラムの構築に関しては、当初、対称性の高いものから順次計算を行う予定であったが、膨大な量の計算およびそのデータ処理に予想以上の時間がかかることが分かったため、2014年度は自動計算システムの構築に取り組み、完成させることができた。このシステムを用いることで、より多くのデータ点を考慮することが可能となり、これまでに作成したD4h対称およびD3d対称について、より精密なダイヤグラムを作成することができた。他の対称性についても今後はスムーズに計算を推進することが可能であると考えられる。 格子緩和効果を考慮した第一原理計算に関しては、α-Al2O3中およびMgO中のd3イオン(V2+, Cr3+, Mn4+)について、種々の計算条件でCASTEPによる構造最適化を行い比較することで、実験結果を再現するための計算条件の最適化を行った。また、α-Al2O3中のCr3+イオンの圧力依存性については、実験との比較が可能であったため、第一原理計算結果に基づいて多重項エネルギー準位を支配する要因を詳細に調べることとした。その結果、共有結合性の効果よりも電子相関効果が支配的であることが分かり、新規赤色蛍光体の理論設計において極めて重要な設計指針が得られた。一方、フッ化物については、種々の計算条件でCASTEPによる構造最適化を試みたが、不純物ではなく化合物としてMnが含まれているK2MnF6においてさえ結合距離が再現できないことが分かったため、フッ化物については第一原理計算ではなく、EXAFS等の実験データに基づいて格子緩和を考慮した計算を行ったところ、実験データの傾向をよく再現する結果が得られた。 全体として、ある程度予定の変更はあったが、おおむね順調に進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
多次元多重項エネルギーダイヤグラムの構築に関しては、膨大な計算およびそのデータ処理を効率的に行うため、多重項計算・データ処理の自動化を行うためのシステムを新たに開発したところである。D4h対称およびD3d対称について、良い結果が得られているため、今後はこの自動計算システムを様々な対称性に対応させ、赤色蛍光体の理論設計に向けた種々のダイヤグラムの作成を推進する。 格子緩和効果を考慮した第一原理計算に関しては、酸化物については、これまでにCASTEPによる構造最適化を行うことで実験結果が良く再現できることを確認すると共に、実験結果をより良く再現するための計算条件の最適化を行った。今後はこの計算条件で種々の酸化物中のd3イオンについて、順次、格子緩和効果を考慮した第一原理計算を行う。フッ化物中のd3イオンについては、CASTEPではうまく再現できないことが分かったため、第一原理計算ではなく、EXAFS等の実験データに基づいて格子緩和効果を考慮した計算を行う。実際に理論設計が必要なのは酸化物であるため、第一原理計算による格子緩和効果の計算は、今後は酸化物中のd3イオンのみに適用する。
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次年度使用額が生じた理由 |
データベース費用の一部について、当初予定していたよりも支出の額が小額で済んだため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は平成27年度の研究費と合わせてソフトウェアライセンスの保守費用などに使用する。
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