研究課題/領域番号 |
25420729
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
高橋 誠 大阪大学, 接合科学研究所, 講師 (10294133)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 陽極接合 / 陽極酸化 / 界面反応 / イオン伝導 / 光学ガラス / 光透過性 / 微細組織 / 精密接合 |
研究概要 |
ホウケイ酸ガラス2種,ソーダライムガラス1種のガラス基板上に真空蒸着によって厚さの異なるアルミニウム層を製膜し,アルミニウム層を陽極,ガラス基板を陰極として両者の間に電圧を印加し,ガラス基板から供給される酸素によるアルミニウム層の酸化に伴うアルミニウム層の透明化と,微視的レベルでの酸化の進行を観察した.その結果,厚さ約50 nmのアルミニウム層において,製膜ままでは可視光に対してほぼ不透明であったものが,電圧印加後は硝種と電圧印加の条件によって約10%から25%の透過性を示すことが見いだされた.これらのアルミニウム層とガラス基板の界面近傍を透過電顕観察すると,界面上に層状に生じるものと,界面からガラス内部に向かって樹枝状に成長するものの2通りのアルミニウム酸化物が生成しており,それに伴い,特に電圧印加で光透過率が大きくなった試料では金属アルミニウム層の厚さが明らかに減少しているのが観察された. 開発しようとする接合法の応用対象として有望な光学ガラスから,クラウン系ガラス1種と,鉛フリーフリントガラス,バリウムフリントガラス,ランタンフリントガラスそれぞれ1種を選定し,これらのガラスおよびソーダライムガラスの,シリコン,アルミニウム,チタンとの陽極接合性を実験的に検証した.クラウン系ガラスとソーダライムガラスでは,接合電圧印加中にガラスを流れる電流は陽極接合に典型的な変化を示し,使用した3種すべての導体と強固な接合界面が形成されたが,フリント系のガラスでは組成によって,電圧印加中に流れる電流の量や変化のパターンに違いがみられた.流れる電流量が小さかったランタンフリントガラスでは,特にアルミニウムとのあいだで健全な継手を得ることができなかった.チタンは多くの硝種とのあいだで優れた陽極接合性を示し,また線膨張率がガラスと近いため,残留応力による接合後のガラスの破損が生じなかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画に置いて今年度に予定していた,ガラス基板表面に製膜した導体層とガラス基板との陽極接合の進行の観察,接合に伴う導体材料の酸化の進行と接合界面組織の発達,導体層とガラス基板の接合状態の評価を3種類のガラスにおいて実行した. また,光学ガラスについても計画通りに使用するガラスの選定を行い,それぞれのガラスと数種類の金属材料との陽極接合性の評価を行った. 導体薄膜層とガラス基板の陽極接合においては,陽極接合に伴う導体層の酸化による可視光の透過率の変化を実際に観察・評価し,導体層の透明化が生じる条件を明らかにした. これらの結果から,今後研究に用いるべき材料の組合せと,接合実験の条件についての指針を得ることができた.
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今後の研究の推進方策 |
25年度に行った研究から,今後,陽極接合による接合界面が透明化するガラス同士の接合法の開発に利用しうるガラス材料・導体材料の組合せが明らかになり,また実際にガラスと接合した導体層を透明化させるための試料の調製と接合の条件についての指針も得られたので,当初の計画通り今年度以降,2枚のガラス基板を,間にはさんだ導体層との陽極接合によって接合し,さらに導体層を酸化させて透明化するための実験を行う.ただし,接合電圧の印加中に流れる電流の小さいガラスについては,接合中に接合界面に供給される酸素量が少なく,導体層を十分に酸化させられない可能性があるので,ガラスの表面改質等により接合中の導体層の酸化を促進する方法も探索する. 得られたガラス同士の貼り合わせ継手については,接合界面の光透過性やその他の光学的性質,また継手としての強さや,高温・腐食環境に対する耐久性の確認を行う.得られる継手の耐熱性・耐候性は,新しく開発しようとする接合法の,従来から存在する接合法,例えば樹脂による接着などに対する優位性になると考えられるので重要である.また接合界面近傍の微細組織の観察を行い,界面組織と,継手の光学的・機械的性質の関係を明らかにし,また陽極接合現象一般の理解に資するデータを得る.
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次年度の研究費の使用計画 |
従来の研究では,使用するガラス試料は,ガラス加工業者から最終的に使用する形状に切り抜いた状態で納入を受けており,本研究においても同様の方法をとる計画で予算を計上していた.しかし,25年度に,他の研究プロジェクトの予算でガラスの切り抜き加工に用いることのできる超音波加工機を導入し,その加工機を本研究でも使用できるようになったたため,ガラスを切り抜き加工を行わない状態で購入できるようになり,そのためガラスの加工費用分が大幅に圧縮された.また,研究の必要に応じて任意の形状にガラスを切り抜けるようになり自由度が増した. 25年度に購入したガラス材料の化学組成が十分に明らかでないので,これらの材料の化学分析を外部の業者に委託する必要がある.次年度使用額を用いてこの委託分析を実施する.
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