高強度鋼の溶接に際して最大の課題は、靭性の確保である。本研究では、溶接金属の高清浄化による高靭化を目指し、①極低酸素シールドガス雰囲気中でのアーク溶接の安定化技術の開発 ならびに、②極低酸素溶接金属でのミクロ組織微細化技術について開発を進めてきた。 ①低酸素シールドガス雰囲気中でのアーク放電の不安定性を、微量のCO2ガスの添加(1.5~2.5%)、アーク発生位置への局所的なCO2ガスのパルス状の添加などによって抑制し、溶接ワイヤの溶融移行状況を溶接電流のパルス化によって溶滴の成長・離脱を制御することで、溶接金属の酸素含有量を数十ppm程度にまで抑制できるアーク溶接方法を確立した。 ②これまでに、数十ppm程度の極低酸素含有量であっても溶接金属中に形成される介在物の平均粒子間距離は微細なアシキュラーフェライト(AF)の長径と同程度であり、AF主体の組織を形成するに十分な介在物が存在すること、また、溶接金属中の強脱酸元素であるAl含有量を低減し、Al2O3ではなくAl-Si-Mn系の酸化物を形成するように成分設計を行うことでγ粒内での変態が活性化され、AF主体の組織が形成され、靭性が向上することを明らかにしてきた。今年度は更に系統的に溶接金属のAl量とO量を広い範囲で変化させ、Al量とO量の比(Al/O)が0.3から1程度の成分範囲においてAF組織が形成されること、O量の減少に伴って靭性が向上していき、20ppm程度の極低酸素量でAl/Oが1付近において最も良好な靭性が得られることを明らかにした。 これまで、アーク溶接金属の高清浄化は溶接プロセス面、微細組織の形成面の両面から不可能と考えられてきたが、本研究によって初めてそれらが可能であり、高清浄化による高靭化への道筋が示された。高張力鋼の溶接金属の靭性向上に向けて、大きな技術的飛躍をもたらす結果が得られた。
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