研究実績の概要 |
PTFE表面に対する放射光照射効果を明らかにしていくために、放射光の照射量を調整できるシステム(放射光照射量調整システム・明昌機工製)の製作を行い、立ち上げを行った。その結果、放射光照射量の調整や実験に必要なビームライン調整に要する時間を短縮できるようになった。放射光照射量調整システムを用い、放射光照射時におけるフラグメントの観測を4重極質量分析器により行った。今年度は、放射光のエネルギー範囲を70から680 eVに拡大して、フラグメントの観測を行った。CF, CF2, CF3のフラグメントに対応する質量数3l, 50, 69のピークが観測された。また、1253.6 eVのエネルギー持つX線を照射した場合におけるフラグメントの観測も行った。現在、励起エネルギーに依存した照射効果について解析を行っている。 PTFEを含むフルオロカーボン表面に対する放射光照射効果を明らかにしていくために、 PTFEと同様なCF2鎖を持つフッ素含有自己組織化膜の放射光照射効果を光電子分光法により調べた。前年度は炭素およびフッ素1s電子の両方の電子を励起できるエネルギーであったが、今年度は炭素1s電子のみを励起できるエネルギーにおいて実験を行った。炭素1s内殻光電子スペクトルは、照射前に結合エネルギー293, 291, 286, 284.5 eVの4成分を観測したが、放射光の照射と共に、293, 291, 286 eVの3成分が急激に減少することを観測した。さらに、これらの成分が低結合エネルギー側にシフトすることも観測した。293, 291 eVの成分は、それぞれCF3, CF2結合に対応しており、炭素とフッ素の結合が放射光の照射により、切断されたことを示している。フッ素含有自己組織化膜に対する放射光照射の効果は、前年度の結果と良く似ており、今回用いたエネルギーでは基本的に差異はないことが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まずはじめに、放射光照射量調整システム・明昌機工製の製作を行い、立ち上げを行った。次に、単色化された放射光を用いて、PTFEを含むフルオロカーボン表面に対する放射光照射効果を調べた。(1)放射光エネルギーが70-260 eVのように炭素1s内殻準位の結合エネルギーより低エネルギーの励起光を用いた場合(2) 放射光エネルギーが300-680 eVのように炭素1s内殻準位の結合エネルギーより高エネルギーであるが、フッ素1s内殻準位の結合エネルギーより低エネルギーを用いた場合(3)炭素やフッ素1s内殻準位の結合エネルギーより大きいエネルギーを持つ励起光を用いた場合の3つについて、励起光照射時におけるフラグメントの観測を行い、励起光エネルギーに依存した照射効果を調べた。加えて、PTFEと同様なCF2鎖を待つフッ素含有自己組織化膜に対し光電子分光法による評価を行った。前年度の実験と比較するために放射光の励起エネルギーを変えて照射効果を調べた。炭素1s内殻光電子スペクトルは、結合エネルギー293, 29l, 286, 284.5 eVの4成分存在したが、放射光の照射と共に、293, 291 eVの成分が減少することを観測した。これらの成分は、CF3, CF2結合成分に対応しており、CF2鎖の結合が放射光照射により、切断しやすいことを示している。放射光照射の効果は、前年度の結果と良く似ており、今回用いた励起エネルギーでは基本的に差異はないことが示された。これらの研究結果は、2件の国際学会で発表を行った。加えて、Applied Physics A論文誌へ投稿し、平成27年3月にオンラインで掲載されたことから、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
放射光照射時におけるPTFEの温度を室温から150℃以上に増加した場合、急激にエッチング速度が増加することが知られており、これはPTFE内における分子の熱的な運動が関係していると考えられている。平成27年度では、PTFEを含むフルオロカーボンに対し、放射光照射時における基板温度の効果を調べていく。そのため、今年度はじめに放射光照射時の温度制御を行うために加熱装置の製作・立ち上げを行い、放射光照射時の温度に依存した放射光照射効果を調べていく。4重極質量分析器により、チャンバー内のフラグメントを測定し、放射光照射時における基板温度の効果を観測する。また、室温から、100℃、150℃や200℃等の代表的な温度において、励起エネルギーの違いによりフラグメントがどのように変化するのかも観測していく。加えて、放射光を照射したPTFE表面に対して、光電子分光法により炭素とフッ素の組成比、成分(CF3, CF2, CF, C-CF, …等)およびその成分の存在比を調べ、放射光照射時の基板温度がどのように影響するのかを明らかにする。平成25年度から行ってきた実験に対するすべてのデータを総合的に解析し、PTFEを含むフルオロカーボンに対する放射光照射効果を明らかにしていく。
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