研究実績の概要 |
放射光照射時におけるPTFEの温度を室温から150℃以上に増加させた場合、急激にエッチング速度が増加することが知られており、これはPTFE内における分子の熱的な運動が関係していると考えられている。そのため、放射光照射時の温度制御を行うために加熱装置の製作・立ち上げを行い、放射光照射時の温度に依存した放射光照射効果を調べた。放射光照射時におけるPTFEの温度が室温から100℃の場合、光電子分光により表面組成を調べた結果、炭素リッチな表面になっているが、照射時における温度が180℃から240℃にした場合、表面組成が炭素リッチな表面から回復してくることが分かった。それぞれの温度領域において、放射光照射量依存性を調べた。また、フラグメントの観測を4重極質量分析器により行い、CF, CF2, CF3のフラグメントに対応する質量数3l, 50, 69のピークが観測された。 PTFEを含むフルオロカーボン表面に対する放射光照射効果の詳細を明らかにしていくために、 PTFEと同様なCF2鎖を持つフッ素含有自己組織化膜の放射光照射効果を光電子分光法により調べた。前年度までは、炭素1s内殻光電子スペクトルの測定から、放射光の照射により炭素とフッ素の結合が切断されたことを示した。今年度は、炭素とフッ素の結合状態を調べるために、価電子帯領域の光電子分光実験を行った。価電子帯領域の光電子スペクトルにおいて、幾つかのピークが観測されたが、励起エネルギー依存性により観測された価電子帯領域の光電子スペクトルの軌道成分を明らかにした。以前に報告されている分子軌道計算と比較した結果、軌道のエネルギー準位に関して非常に良い一致を得た。価電子帯領域の光電子スペクトルから、放射光照射量依存性を観測するとフッ素由来のピーク強度が急激に減少することが示された。
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