研究課題/領域番号 |
25420736
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
板谷 清司 上智大学, 理工学部, 教授 (90129784)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ポリエーテルエーテルケトン / メッシュ / 硫酸処理 / 表面改質 / マイクロ波加熱 / 水酸アパタイト被覆 |
研究実績の概要 |
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)は脊椎椎体骨スペーサーを始め,医療分野への応用が期待される。昨年度はゾルーゲル法と真空紫外光(VUV)照射によって,PEEK基板上にシリカ質膜を形成後,疑似体液に14日間浸漬して,約6 umの厚さの水酸アパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2;HAp)膜を形成させることに成功した。本年度は,PEEKメッシュ(網目の間隔:約0.5 mm)のような三次元的な形状に対しても効率良くHAp膜を形成させるため,(1) 硫酸処理によって表面改質(スルホン基の形成)したのち,(2) HAp溶解水溶液(HApを精製水に懸濁させ,炭酸ガスを通じて溶解させた溶液)中に表面改質したPEEKメッシュを浸漬し,マイクロ波加熱を行って迅速なHAp被覆を試みた。硫酸水溶液は,濃硫酸と精製水とを等体積で混合して調製したもの(50%硫酸溶液)と3 : 7で混合して調製したもの(30%硫酸溶液)をそれぞれ用いた。いずれの濃度の硫酸中にPEEKを12 h浸漬しても,X線光電子分光分析法で調べたスペクトルからは,170 eV付近にピークが観察されたことから,PEEK基板表面にスルホン基が形成されたことが確認された。表面改質したPEEKメッシュをHAp溶解水溶液に浸漬し、マイクロ波加熱を行ってHAp膜の形成を試みた。50%濃度の硫酸にPEEK基板を12 h浸漬し,アパタイト溶解水溶液中でマイクロ波加熱(100℃, 10分間)の操作を5回繰り返したところ,X線回折ではHApが検出された。一方,PEEKメッシュの表面をSEMで観察すると,球状粒子が広範囲に析出していた。PEEKメッシュを50%硫酸に12 h浸漬後、HAp溶解水溶液に浸漬し,マイクロ波照射して100℃で5回繰り返し加熱を行ったところ,X線回折ではHApだけが検出された。以上,複雑な形状を有するPEEKメッシュでも,本研究によってHApを被覆できることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
PEEKメッシュは三次元的な形状をしており,PEEK基板のように二次元的な面への被覆と異なり,当初はメッシュ全体にわたって水酸アパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2;HAp)の被覆を均質に行うのが困難と判断された。そこで,PEEKメッシュへのHApの被覆方法について再度見直した。すなわち,昨年度はゾルーゲル法によってPEEK基板上にシリカ質膜を形成後,疑似体液に14日間浸漬してHAp膜を形成させたが,平成26年度は,シリカ質膜の形成操作を省略し,硫酸処理によって表面改質を行うとともに,疑似体液中で14日間浸漬を行う代わりに,HAp溶解水溶液(HApを精製水に懸濁させ,炭酸ガスを通じて溶解させた溶液)中に表面改質したPEEKメッシュを浸漬し,マイクロ波加熱(100℃で10分間)を行って迅速なHAp被覆を試みたところ,PEEKメッシュ全体を均質に被覆することができた。以上,本研究によってHApを均質に,また短時間に被覆が可能となり,当初の研究計画以上の成果を収めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度はPEEK基板の表面改質を更に簡便な方法で行う手法について検討を行う。具体的には,VUV照射を空気中で行うと周囲に酸素ラジカルが生成するとの報告もあるため,この現象を利用してドライな方法でPEEK表面を親水性に改質できるかどうか検討を行う。なお,PEEK表面に親水性の官能基を形成後,HAp膜を形成する方法については昨年度と同じようにHAp溶解水溶液中でマイクロ波加熱を行う手法を利用する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた物品購入の支出が少なかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成26年度に使用を抑えた物品の購入費用として支出を予定している。
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