研究課題/領域番号 |
25420741
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研究機関 | 沖縄工業高等専門学校 |
研究代表者 |
政木 清孝 沖縄工業高等専門学校, 機械システム工学科, 准教授 (30323885)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 摩擦攪拌接合 / 疲労き裂進展 / 放射光ラミノグラフィ / ショットピーニング / レーザピーニング / 応力拡大係数 |
研究実績の概要 |
各種輸送機器などへの適用が進められているアルミニウム合金の摩擦攪拌接合(FSW)継手について、ピーニング技術による疲労信頼性向上をはかるとともに、疲労き裂の進展挙動をX線CTや放射光ラミノグラフィを利用することで非破壊的に可視化する手法を確立して疲労破壊メカニズムの解明を目指す。平成26年度は、化学組成の異なる2種類のアルミニウム合金、A6061とA2024材を用いて異材FSW継手を作成した。この異材FSW継手の中心に付与した微小ドリル穴からの疲労き裂進展挙動のほか、FSW継手における接合後の組織の攪拌状況について、放射光ラミノグラフィによる同時可視化を行った。以下に本年度の研究成果概要を述べる。 (1)化学組成の異なる2種類のアルミニウム合金、A6061とA2024材の異材FSW接合にあたり、適切と思われる接合条件は昨年度確立したが、ツールが激しく摩耗するといった問題を生じた。そこで、ツールの長寿命化を目的として表面処理の一種であるプラズマ窒化処理を施した。その結果、ツールの長寿命は劇的に改善された。 (2)大型放射光施設SPring-8のビームラインBL19B2を利用した継続的な実験により、放射光ラミノグラフィによる疲労き裂と組織の攪拌状況を同時可視化することに成功した。昨年度のA6061共材FSW継手と同様に、接合中心に付与した微小ドリル穴からの疲労き裂の成長挙動を調査した結果、A6061/A2024異材FSW継手においても荷重軸方向へ透過すると綺麗な半楕円形状となっていることを明らかとした。 (3)A6061共材継手の試験片に予き裂を導入した後に日本式レーザピーニングを適用し、SPring-8における放射光ラミノグラフィによる透過データの取得と疲労試験を交互に実施することにより、疲労破断までのき裂進展挙動を三次元的に可視化するための基礎データを取得した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、A6061とA2024の異材FSW継手を安定的に作成するため、プラズマ窒化によるツールの改良を行った。また、大型放射光施設SPring-8の課題申請にあたっては、2014A期、2014B期と二度採択され、当初の予定どおり疲労き裂の可視化実験を行うことができた。平成25年度よりSPring-8で使用する疲労試験機をメーカーより借用する必要が無くなったことから、計上していた経費の見直しを行って実験補助学生を1名増員し、3名体制で実験に臨んだ。また、研究協力者であるJASRIの梶原氏のご尽力により、放射光ラミノグラフィによる試験片全体の疲労き裂観察のために必要な透過データの取得時間が大幅に短縮され(従来に比べておおよそ5分の1)、SPring-8での限られた利用時間のなかで効率良くデータを取得することが可能となった。しかし一方で扱うデータが膨大な量となり、放射光ラミノグラフィにより得られた試験片の透過データから再構成を行うにあたり、多大な時間を費やすこととなった。また、本年度はA6061とA2024の異材FSW継手を対象としたが、得られたスライス像のコントラストがA6061とA2024の合金元素の違いに起因して一定とはならず、従来のマクロプログラムが利用できなかった。なお、マクロプログラムを改良し、現在は解消されている。当初予定では、日本式レーザピーニング処理による異材FSW継手の疲労特性改善効果について、基礎的な疲労特性データを取得する予定であったが、ラミノグラフィのデータ整理を優先させたため、次年度に繰り越すこととした。今年度は当初の研究計画とは予定が前後したものの、計画とは大きく変更が無いので、「(2)おおむね順調に進展している。」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は最終年度であるため、SPring-8での実験よりも現在までに得られているデータ整理に重点を置く。ただし、平成26年度にやり残した実験があるため、以下の内容について検討を進めていく。 (主テーマ)異なるアルミニウムをFSW 接合した部材への展開 (1)成分の異なるA2024とA6061をFSW接合し、日本式LP処理によって疲労信頼性向上を図る。本件は、平成26年度に実施できなかった実験である。表面改質処理した接合ツールにより、安定的にA6061/A2024 の異材FSW接合を作成可能となったので、継手を作製して試験片の作製に取り掛かる。日本式LP処理は、研究協力者の佐野氏を通して(株)東芝に依頼する。疲労試験に要する期間は長く見積もっても2ヶ月程度であるため、問題なく研究期間中に完了できる。 (2)日本式LP を適用したA6061/A2024 の異材FSW 継手の疲労き裂進展挙動を可視化し、LP処理により生じた圧縮残留応力による疲労き裂の進展抑制効果を定量的に明らかにする。先行して平成26年度のSPring-8の利用期間中に本件を実施していたが、疲労き裂が進展しなかったため、一時中断している。最終年度でもあり、本試験を継続して実施するかはLP処理したA6061共材FSW継手のデータ整理の進行状況から判断する。なお本件は、設定した負荷応力振幅では疲労き裂が進展しなかったということであり、LP処理によって疲労き裂の進展が抑制されたと結論づけられる。 これまでのSPring-8で行った実験の総まとめを行い、「(学術的目標)FSW 継手の摩擦攪拌組織中のき裂進展挙動の解明」と、「(社会的目標)FSW 継手の疲労信頼性向上への寄与」に向けて、研究成果の発表に努める。
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