電気自動車などの普及には二次電池システムのエネルギー密度の飛躍的な増加が必要不可欠であり、リチウム空気電池など新しい電池系の実用化が期待されている。しかしながら、リチウム空気電池の開発においては、従来の試行錯誤的な実験手法のみでは困難が予想されている。本研究では、リチウム空気電池の開発を目的として、ミクロ/メソ/マクロのシミュレーション手法を融合させたマルチスケール計算化学プログラム群を開発することで、リチウム空気電池の実用化研究をトータルに支援できる理論的設計基盤の構築を行った。まず、反応を考慮したリチウム空気電池のカソード極構造のメソモデリング手法の開発として、反応析出物によってカソード極の微細細孔構造がどのように閉塞するのかを第一原理分子動力学法を用いて検討した。検討結果に基づき新規な細孔閉塞モデルを提案し、リチウム空気電池の放電特性をシミュレーションした。具体的には、電流-電圧曲線を解析できるシミュレータを開発し、カソードの多孔質構造変化を考慮して、リチウム濃度と酸素濃度をFickの式から見積もり、バトラー・ボルマー式から電圧-電流特性を数値計算することで、カソード極の空隙率や触媒量などの影響を評価することが可能となった。また、充電時における放電析出物の分解過程のシミュレーションを行い、自由ポテンシャル変化から充電電圧を理論的に見積もることに成功した。この結果を電圧-電流特性のシミュレーションに反映させて、リサイクル特性を微細構造の変化にもとづいて評価できるプログラムを開発した。また、開発したシミュレーションプログラムの動作検証として、柱状粒子や不定形粒子をカソード電極に用いた場合の性能評価をシミュレーションし、既報の実験結果と比較を行った。また、溶媒和イオン液体のシミュレーションも実施し、電解質が電池性能に及ぼす影響を定量的に明らかにした。
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