これまでの研究により、水素脆化を起こすことが分かっている7075アルミニウム(Al-Zn-Mg-Cu-Cr)合金において第2相であるAl7Cu2Fe相から水素が侵入することが示されている一方、この化合物がほとんど存在しない(CuやCr、および不純物のFeをほとんど含まない)Al-Zn-Mg合金においてより顕著に水素脆化を生じることが報告されている。そこで、Al7Cu2Fe相のみを有するAl-Cu-Fe合金、Al-Zn-Mg合金の主要な強化相であるMgZn2相のみを有するAl-Zn-Mg合金を作製し、水素挙動を調査した。その結果、母相からではなく第2相のみから水素が侵入すること、Al7Cu2Fe相のほうが、MgZn2相よりも侵入サイトとしての有効性が高いことが分かった。これは、表面酸化皮膜の水素透過性がAl7Cu2Fe相が最も高く、MgZn2相、母相の順に透過しにくくなることによると判断された。 次に、Al-Zn-Mg合金と同様に、第2相を含まずに水素脆化を示すAl-9%Mg合金について、引張変形に伴って放出される水素を可視化した結果、粒内のすべり帯とともに一部の粒界上から水素の放出が観察された。粒界近傍で生じる段差と水素放出の関係を調査し、水素が放出される粒界では、それに隣接する粒内のすべりによる水素の移動、粒内すべり変形による段差の形成、酸化被膜の破壊を経て、水素が放出されるものと考えられた。 最終年度には、Al-Zn-Mg合金に引張変形を与え放出される水素を可視化し、上記と同様の結果を得た。ただ上記Al-Mg合金と異なり、粒界に沿って無析出帯が存在することで、粒界近傍に変形が集中し、転位に運ばれる水素量が増えたため、段差を形成するせん断応力成分が小さい粒界においても水素が放出された。以上により水素侵入・放出における緻密な酸化皮膜の役割が明らかになった。
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