下顎骨における生体アパタイト結晶(BAp)の配向性は、近遠心方向へ優先配向し、成長や咀嚼にともなうin vivo応力分布の変化とともに協調的に制御されている。本研究では咀嚼の有無による骨量(骨密度・骨体積)、骨質(BApのc軸配向性)の局所変化をミクロンオーダーの微小領域でとらえ、骨微細構造と骨力学機能との関連を明らかにすることを最終目的としている。 最終年度は研究課題である遺伝子欠損骨疾患マウスのop/opマウスおよびc-src遺伝子欠損骨疾患マウス下顎骨試料を中心に咀嚼の有無による骨量・骨質の変化を調査した。骨微細構造をミクロンオーダーでとらえるために、ナノX線CTを用いて応力感受細胞であるオステオサイト(OCY)の形状変化に注目した。OCY観察に必要な最適測定条件を確立し定量評価した結果も加え、これまで用いた咀嚼障害モデルについて咀嚼の有無による影響などを比較検討した。 OCYの咀嚼荷重の有無による形状変化をミクロンオーダーでとらえるためには、試料の調整のみならず測定に関わる光学系全体の恒温保持や試料と検出器の距離の適正化が極めて重要であった。得られたOCY形状の変化は、遺伝子欠損骨疾患マウス試料と対照群を比べるとOCYの伸長度合いや配向分布に差が認められた。 一方、咀嚼の有無の影響は歯根直下の咀嚼の影響を強く受ける局所領域では、OCY形状の変化として明確にあらわれた。そのような骨微細構造の変化は骨力学機能と深く関わっており、骨力学機能の一つであるヤング率は骨量に比べて骨質変化に強く依存した。 これまで用いた全ての咀嚼障害モデルの結果を総合的に比較検討した結果、咀嚼の有無による骨力学機能への影響は応力制御モデルと遺伝子欠損モデルにおいて顕著に表れた。以上よりBAp結晶配向化制御が骨力学機能に極めて有効であることが示唆された。
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