膠原(コラーゲン)繊維は真皮、腱、靭帯、骨、軟骨などを構成する主要なたんぱく質の一つである。特に正常な腱では主成分のコラーゲン線維は全て一方向に配向した組織を呈しており、断裂等の損傷を受けた腱は自己修復機能を持つ。また、断裂したアキレス腱の修復過程において、腱断端から生じる分泌組織(tendon gel)に張力を印加することにより、腱が再生されることを見出した。tendon gelはコラーゲン前駆体と結合組織(腱鞘)から成る。これから結合組織を取り除いたコラーゲン前駆体に対して張力を印加することで、コラーゲン線維が張力印加方向に配列した組織を形成し、靭帯にも類似した組織になることが判明した。腱分泌組織から腱鞘由来の結合組織を除去した組織は、腱だけでなく靭帯としても再生可能である。本年度は、結合組織を除いた分泌組織に対して独自に設計した装置で張力印加を行い、人工腱や人工靭帯など生体組織形成に及ぼす力学的影響を評価することを目的とした。 10日間のクリープ試験の結果、試料は破断せずに全体で約25%の伸びが確認できた。また、引張後の試料をAFMを用いて表面観察を行った結果、引張方向に線維の配向が確認できた。線維の平均直径は約208nmであった。一方、10日間のサイクル試験の結果、試料は破断せずに全体の約20%の伸びが確認できた。しかし、AMF観察した結果、コラーゲン線維は張力印加方向に配列していたがその平均直径はクリープ試験の半分程度の約99nmであった。サイクル試験では張力印加にインターバルがあることから張力印加時間を積算したところ、クリープ試験のおよそ70%程度であることがわかった。これらの結果は、張力が印加されているときのみコラーゲン分子の架橋が起きていることを示唆している。コラーゲン線維の成長には一定荷重を継続的に印加するクリープ試験が適していると考えられる。
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