本年度はAl-Mg合金を中心にして、濃度の影響および粒界と粒内の局所力学応答に対する差異を検討した。Mgを0.1at%、1.0at%添加したAl-Mg合金の溶体化処理材に対してナノインデンテーション試験を行ったところ、純Alと比較して粒内の硬さは添加量に伴い上昇した。また、Al-Si合金やAl-Fe合金のデータと比較すると、Siよりは硬さの上昇度合いは大きいものの、Feよりは小さいことが明らかになった。これらの結果は、MgやSi、Feのミスフィットひずみの大小に起因する。一方、荷重-変位曲線において転位の増殖等に対応すると考えられている、ポップイン挙動が生じる最小荷重である臨界荷重は、Mg量に応じた顕著な変化は認められなかった。 加えて、粒界と粒内の挙動および物性値を比較するために、純Al、Al-SiおよびAl-Mg合金に対して、それぞれの局所領域でナノインデンテーション試験を実施した。粒内の硬さとヤング率を基準として,粒界で得られる値がどのように変化するか、また純Alと比較して添加元素がどのように影響を及ぼすか調査・検討したところ、異種元素を添加することで粒界の物性値は粒内の値に近付く傾向が認められた。この結果は、純Alの結晶粒界近傍において存在する自由体積が粒界偏析によって減少し、純Alの結晶粒界が有するひずみが緩和されることに由来すると考えている。ただし、Al-MgとAl-Siでその挙動が異なることも併せて明らかとなった。以上の得られた結果より、当初検討していた溶質元素の分布を力学試験によって求める試みは可能であると結論づけられる一方で、個々の粒界が有する弾性ひずみ計測や各種溶質元素の偏析傾向、粒界性格の関係性を検討し、統計的にデータの蓄積が必要であることも明らかとなった。
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