研究実績の概要 |
自動車電装化の進展および電気自動車の普及とともに、様々な電子制御機器に繋がっている端子・コネクタの材料に対して、高い電気接続信頼性を保証するために耐熱性や耐摩耗性、耐食性などの要求が年々高まっている。特に、電気自動車に給電用の高速充電コネクタに対してより高い耐摩耗性が要求される。 本研究では、高価な貴金属めっき(Au, Ag)に代わる次世代超高耐熱めっき材の開発を目指し、自動車端子・コネクタ部品用の新規なSn/Ag系多層めっきを開発した。すなわち、工業プロセスで製造された銅合金上へのリフローSnめっきを基材とし、種々のめっき浴中でAgめっきとSnめっきを精密に制御することでSnの表面に厚さ20-500 nmのAg層とSn層を一回または複数回コーティングすることにより、様々の層構造を有するナノ積層型Sn/Ag3Sn/Ag多層めっきを作製することができた。また、様々な自動車コネクタの使用環境を想定し、各種めっき仕様の表面性状と硬度、熱安定性や耐摩耗性などを評価し、そのメカニズムの解明を試みた。 その結果として、Sn/Ag3Sn多層めっきは、通常のSnめっきより7倍、Agめっきより2.7倍高い表面硬度を示し、摩擦試験における摩擦係数の上昇を抑制することが見出された。また、Sn/Ag3Sn/Ag多層めっきは、摩擦係数が低く、Sn/Ag3Sn多層めっきより高い耐摩耗性を示した。これは、最表面の軟質Ag層による固体潤滑作用と下の硬質Ag3Sn層による耐摩耗性との複合効果だと考えられる。また、高温環境下においてAg3Sn中間層の合金化が進行し、耐摩耗性がさらに向上されることが確認された。さらに、種々の曲げ試験によりSn/Ag3Sn/Ag系多層めっきは現行めっき材と同等の加工性を持つことが確認されるため、実用に可能であることが示唆された。 これにより、Sn/Ag3Sn/Ag系多層めっきは、車載端子、LEDリーダーフレームおよび電気自動車用の高速充電コネクタなどに幅広く応用できると考えられる。
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