研究課題/領域番号 |
25420770
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
齋藤 嘉一 秋田大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10302259)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | Mg alloys / Precipitation / Crystal structure / Microstructure / TEM |
研究実績の概要 |
本研究は,Mg-Y-Zn系合金の機械的性質のさらなる向上を目指した組織・構造制御の可能性を検討したものである。同合金系は,急速凝固粉末冶金法で作られたMg97Y2Zn1合金が従来Mg材をはるかに上回る強靱性を示すことが明らかにされて以来,最も注目されている系である。この合金系は,長周期積層構造(LPS)とα相の2相共存組織の下で高い機械的性質を発揮することが知られているが,溶製時の鋳造段階でLPS相が形成されることからその後の熱処理による組織制御が不可能と考えられてきた。そこで,第4,第5の合金添加物としてYやZnの一部をそれぞれCeならびにAlで置換した種々の時効析出合金の作製を試み,透過型電子顕微鏡法を駆使して時効析出挙動への影響を調査した。さらに,圧延と焼鈍から成る加工熱処理,時効熱処理を組み合わせた複合処理が組織・構造に与える影響を精査した。 今年度の研究を通じて,以下の成果が得られた。(1)Mg97Y2Zn1合金もしくはその周辺組成の合金にCeを微量添加し、これに低温時効を施すと析出物のハイブリッド化が進み、LPSO相と規則化GPゾーンの併存組織が現れ、硬度が上昇する。(2)Mg97Y2Zn1合金もしくはその周辺組成の合金にAlを微量添加することでLPSO相の底面規則化が進行し、長周期規則構造相(OD-LPSO相)が現れる。こうして、Alの微量添加によってLPSO相の構造制御が可能になることが明らかになった。規則化が強まったOD-LPSO相の形成は強靭化に寄与する可能性がある。(3)Mg97Y2Zn1合金もしくはその周辺組成の合金に微量のCeとAlを同時添加した合金に対して、適当な加工熱処理と時効熱処理を施すことで、析出を活発化させるとともに、析出組織の微細化を促す効果があることが分かった。 こうして,以上のような合金添加と加工熱処理を組み合わせることによって,Mg97Y2Zn1合金の機械的性質の向上に有効な組織・構造制御が可能になることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の作業計画としては,Mg-Y-Zn基合金(Yをメインに他の希土類元素,Znをメインに他の典型元素による置換を含む)のLPS相の組織・構造制御と,LPS相とα-Mgの2相共存組織に他の準安定析出物を加えたハイブリッド組織を目指すことを目標に置いた。作業の主な流れとしては,以下の観点で検証を進めた。 (検証1) 初年度の活動で見い出した有効添加元素を含む試作合金に対して,高角度散乱暗視野STEM法(HAADF-STEM法)を駆使して,Mg7RE型析出物(β'相)やGP-zonesのような準安定析出物が形成されることを確認する。 (検証2) 当該合金系に対し,圧延と焼鈍を組み合わせた加工熱処理を通じて,結晶内に高密度に導入した転位を析出物の核発生サイトとして機能させることが可能か否か,検討する。 検証1については,Mg-Y-Zn系では得られない,LPS相+α相に加えてGP-zonesの複合組織が有れることを確認すると共に,硬度の向上をもたらすことを確認した。さらにGP-zonesはMg格子に対するCeの化学的秩序によって生ずる規則構造をもつと解釈された。一方,検証2については,加工熱処理を通じてLPS相の分散状態の微細化が可能になることがわかった。さらに当初の予想結果とは異なる成果として,Znの一部を典型元素Alで置換することによって,底面内におけるLPS相の規則化がさらに進行し,LPS相の構造制御が可能になることを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度の成果で特筆すべき点としては,Znの一部をAlで置換することによって,従来LPS相の派生構造である規則化LPS相(OD-LPS)が現れることが明らかになった。これを基に今後は,OD-LPS相の安定性の評価に加え,同相の機械的性質への影響,さらには加工熱処理を組み合わせることによって,当該組織の微細分散化の可能性,ひいては強度性能の向上の可能性を検証する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初購入予定していた消耗品の一部において,平成26年度内の購入の必要がなくなった物があり,その分の残金¥52536が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度の研究費として,当初計画の予算に加え,昨年度の残金を合わせた額を計画的に執行する予定である。
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